第6話 ジェノの実力
不機嫌そうなジェノと一緒に、細い路地をどんどんと進んでいく。さっきまでいた大通りの喧騒はすでに遥か彼方へと去っていき、しんとした廃村のような空気さえ漂っている。人影もほとんどなく、汚い布切れを身にまとったやせた人が座り込んでたりするだけだ。どうしてこんなところを更に奥へと進んでいくかと言うと
「おら、さっさと歩けよ!」
「逃げようったってそうは行かないからな!」
そう、定番の絡まれイベントが発生した。ギルドの中で登録する様子を見ていた良くない奴が俺達に目を付けたようで、建物を出て少し歩いているとガラの悪い二人の男達に声を掛けられた。
どうしようかとジェノに視線をやると明らかにイラついていたが、敢えて従おうというのが伝わってきたからそれに合わせておいた。この程度の連中なんてきっとどうにでもなるしね。
というわけで気づけば少し開けたところに出た。広場みたいだけど何の為の空間なんだろうか。真ん中には小さな祠のような物が佇んでる。何かただならぬ気配を感じるしあれってこの街でも重要なところっぽいけど大丈夫かなぁ・・・。
「んで、俺達をこんなところまで連れてきて何の用なんだ?この後も予定があって忙しいんだけど」
「なー。出来れば納得いく答えを聞かせてもらいてぇところだぜ」
俺とジェノを祠の少し手前辺りまで押し込むようにして間の空いた二人に向かって、ついワクワクを抑え切れない感じで声をかける。いやー、やっぱり冒険者に登録したんならとりあえず絡まれとかないとね。せっかく絶対大丈夫だと思えるほどの強さを持ってるんだし。ちなみに、【鑑定】するまでもなくこの二人は大して強くないのが分かった。そこは生物としての勘のようなもので何となく分かるものである。
それにしても意外なのがジェノだ。確かに鍛えてはいそうだし、戦闘は自分がやるとかも言ってはいたがあんまり強そうには思えない。なのにやたら強気で男たちをにらみつけている。
それに、ジェノの格好は普段着で装備品の類はほとんど無い。強いて言うなら腰の辺りに布の袋と、先端にオレンジ色の宝石がはめ込まれた30cmくらいの棒を差しているくらいか。宝石は今の俺の拳大くらいだから、この冒険者達はこれを狙ってるのかもしれない。
「なーに、お前みたいな若造が冒険者でしかもテイマーに登録するなんて、まだまだ早いってことを教えてあげようかと思ってなぁ」
「そうそう、今なら持ち物と有り金全部を寄こせば痛い目に合わないで済ましてやるよ」
こいつらの見た目は両方30後半くらいのおっさんだ。片方は軽装に杖。もう一人も弓を背中に背負って今は短剣の柄を触って威圧している。どうせこの歳になってもうだつが上がらなくて、夢と希望に満ち溢れた若人がうらやましくって絡んできたんだな。そんなんだからダメなんだよボケ。と思っていると、ジェノも流石にこれに従う気はないようだ。
「自分たちに未来が無いからってオレ達を妬むのは筋違いってもんだぜおっさん。どうせその歳でもうだつが上がらねぇんだろうが、そんなことやってっからダメなんだよ」
等と俺と同じようなことを言いながら腰の棒を手に構えた。あ、やっぱりそれ武器だったんだ。
「なんだとこのガキ・・・!優しくしてりゃあ付け上がりやがって!もう許さねぇ、ボコボコに痛めつけてから身包み剥いでやるぞ!」
「あいよ。ああ、坊主達には悪いけどな、俺達は二人ともCランクでCランクのパーティーも組んでいる。覚悟しといた方がいいぞ」
まさか急に戦闘になるとは思ってなかったから、考えていたスキルを作ってしまうことにした。このまま戦闘を行うと大きな被害が出てしまう。主にあちらに。
「【スキル創造】」
小さく呟いてスキルを起動する。頭の中に浮かんだウインドウに効果を書き込んでいく。【ステータス偽装】と同期して、そのステータス通りまでしか能力を使えない。オンオフ自由、と。
マイナス効果だからか一瞬で許可が下りたらしく次の瞬間には、【弱体化】というスキルを習得した。
「【弱体化】」
これも早速使っておく。急に身体が重くなったような気がして、自分の中を巡る魔力も先程までと比べると塵にも等しい程になる。そして力を入れたら粉砕してしまいそうな程頼りなかった地面は、しっかりとした頼もしさを伝えてくる。
それにしても二人ともCランクか、意外と高いな。聞いた話によればCランクと言えば普通にベテランクラスだそうだ。才能を持たない者が長年努力してようやく到達出来るという、ある種の境界のようなランクということになる。一部の素質ある者はBランクへと上がり、更に才能を発揮できればAへと至れる。Sクラス冒険者はある種規格外とも呼べる存在なので、一般的にはAランクが頂点という認識でいいらしい。
さて、煮詰まったとはいえCランク冒険者、ある程度の実力がなければなることは出来ない。正直登録したての新米冒険者二人にはどうしようもない相手なんだろう。だがここはやはり困難なイベントを乗り越えてこその主人公。ジェノに期待してみよう。ということで一歩下がってジェノを前面に押し出す。
「ジェノ、大丈夫か?」
「ああ、このくらいで躓いてたら旅なんかしてられねぇからな。かかってこいや!」
「何っ!?」
と言いつつジェノが地面に向かって何かをぶつけると、周りの風景が薄くグレーがかったようになる。なんだろう、今ジェノが使ったアイテムのせいだろうか。
とりあえず三人を見てみると、相手は混乱しつつも武器を構えて辺りを警戒しているし、ジェノは目を左腕で覆ってさらに何かを地面に叩きつけようとしている。嫌な予感がしたので咄嗟に目をつぶる。
「ぐわぁっ!?」
「くそ、目くらましか!」
瞼の隙間から光が差し込んでくる。どうやらスタングレネードのような物を放ったらしい。とすると最初に使った方は効果を増幅するような何かか?
今の閃光でグレーがかった景色は戻ってるけど、おっさん共は目をおさえて混乱している。倒れこんでないだけましなのかもしれないけど。その隙にジェノは魔法使い風の男に向かって行き、隙だらけの延髄に肘を入れて昏倒させていた。意外と出来るなこいつ。流石俺が見込んだだけのことはある。
「やっと目が見えてきやがった、もう許さねぇ!」
何かアイテムを使ったのかもう視力を回復させたらしい。Cランク冒険者も伊達じゃないってことか。短剣を構えてジェノをにらみ付けている。
対するジェノは棒を構えると、棒の先端に30cm程のオレンジ色で真っ直ぐな刃が現れた。なるほど、あれはそういう武器なのか。仕込み杖的な。
「ほう、魔法使いの杖かと思ったら珍しいもん持ってんじゃねぇか。そいつももらってやるからありがたく思えよ」
「誰がてめーなんかにやるかよ。家宝だぞ家宝。んなことしたらぶっ殺されちまう」
誰に、というのは聞くだけ野暮というものだ。あの【鬼殺し】の使い手に違いない。
そうだ、この機会にスキルの練習でもしておこうかな。手のひらを残った弓使いの方に向けてどう使うか考える。とりあえずありがちに水の弾でも打ち出してみるか。
「【水の使い手】」
スキルを起動すると、手の平の前に1リットルくらいの水が現れてふよふよと浮かんでいる。量は大体思ったとおりに出せた。後はこれを放てばいい援護になるかな。
先ほどまで向かい合っていた二人に意識を向けると、いつの間にか切り結んでいる。互いの武器を打ち合わせて実力や間合いを計っているところか。やはり実力は向こうの方が上らしくやや分が悪い。相手がその気になったらすぐに押し込まれてしまいそうだ。
援護するタイミングを見計らっているが相手もやるものでこちらへもしっかりと意識を向けている。正直いくらジェノと一緒に動いてたり警戒していても、目にもとまらない速度で頭部に撃ち込むことも可能だと俺の中でスキルが言っている。けどそれをやると多分頭部がはじけて真っ赤な噴水が出来上がるし、ジェノにも実力がばれてしまう。なるたけ目立たないようにやらないといけない。
と考えていると、ジェノが急なタイミングで後ろに跳んだ。なるほど。何故か通じ合っている気がするのは契約のせいなのか、登録のせいなのか、はたまた謎の信頼関係か。
とにかくジェノが距離を空けた瞬間に間髪入れずに水弾を放つ。一般高校生が全力で野球ボールを投げたくらいの速度で飛んでいった水弾は、わずかにかがんでかわされた。ん?かわされた水弾が周りの建物の壁に当たる前に空中で弾けたぞ?まぁ、いいや。
その間にジェノが距離を詰めている。手にした太陽のような煌きを持つ刃を左から真一文字に振るう。
「もう見切ってんだよガキが!」
あのCランク冒険者・・・ああもう鬱陶しいからゴミでいいや。ゴミは僅かに後ろに下がって剣戟の軌道から身体を離脱させる。あの位置は届かない。ほんとにギリギリでよけて反撃をジェノにくらわせるつもりのようだ。仕方ない、ジェノが危なくなったら割り込もう。ばれた後のことは後で考えよう。
「死ねこのゴミがああああああああああ!!」
しかしジェノは違った。諦めていないどころかむしろ計算通りだったようだ。突然オレンジ色の刃が伸びてゴミの腹部に突き刺さる。そして勢いそのままに振り切り、ゴミの腹部を真ん中辺りから引き裂いた。
「ぐ・・・がはっ・・・」
衝撃と痛みで後ずさったゴミは、腹部を押さえて呻いている。膝をつかないのは立派だけどどうみても致命傷だ。大人しく横になってアイテムなりで回復しないとやばそうだ。
「これに懲りたら回復してどっかいっちまえよ。回復焼くなり使えばまだ間に合うだろ」
「ぐ、くそが・・・なんでこんなことに・・!」
「う・・・何がどうなったんだ・・・」
なんでってお前らが絡んできたからだろうに。と、昏倒していたもう一人も意識を取り戻したようだ。さすがに怪我人を放ってこちらに攻撃してくることはないだろうし大丈夫かな。ないよね?
「お、おい大丈夫か!?」
襲ってこないか心配そうに見ていると、やはり杞憂だったらしく魔法使い風・・・こっちはチリにしとくか。チリはゴミに駆け寄り介抱している。回復魔法も使えるようで手を当てた傷口は血が止まっている。
ポンと、頭にジェノの手が置かれる。
「あんなやつらまで心配してたら気が持たねぇぞ。自業自得だ」
別の心配をしてたんだけどそこまでは伝わらなかったらしく、しかし好意的に解釈されたので特に訂正はせずに頷いておく。コンビでの初戦闘は無事に終了したわけだけど、わりかし良かったんじゃないか。思ったよりジェノが強いっていうのがわかって安心したし。これなら主人公も任せられそうだ。
「おい、それはまずいだろ!やめろ!」
「うるせぇ、役立たずは黙って見てろ!」
ふと、焦るような声がした。ゴミは止めようとするチリを突き飛ばし、小さな棒のようなものを取り出して口の前へ持っていく。
「こんな街中で使うつもりはなかったがお前らのことは許さねぇ。後のことがどうなっても本気で相手してやるよ!」
確かに弓は使わずに短剣だけで戦っていたけど本気じゃなかったのか?まぁ舐めてはいたんだろうけど、今更本気を出すと言ってもそんなにすぐ完治するわけでもないだろうし・・・ん?待てよ。
あの二人はパーティーだと言った。それなのに片方は明らかに魔法使いだしゴミの方も前衛という感じじゃなかった。ということは、Cランクパーティーの前衛を任せられるような存在が他にいる。そしてあのゴミの行動から察するにそれは・・・。
「ジェノ、まずい!」
「ああ、任せろ!」
「もう遅い!・・・ぐはっ」
俺の呼びかけにジェノが応えて走り出す。そのままに殴りつけようとするが僅かに間に合わない。ジェノの拳は、笛によって甲高い音を周囲に響かせ満足そうなゴミの顔を捉えて殴り飛ばした。
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