第5話 二つで一つの絆
さっきまでは急な召喚にまだ混乱していたみたいで周りの風景なんかこれっぽっちも目に入ってなかったけど、本当に同じ街を歩いてるのかというくらいに違って見える。大きくはない街だと聞いていたけどこの大通りには色んな屋台が出ているし、色んな人が歩いていたり買い物をしていたりする。
俺は今ジェノと二人で冒険者ギルドのコウロ支部へと向かっていた。ジェノママとの話の後、あれから帰ってきたジェノも交えてしばらくまた話した結果、ジェノと契約してジェノに同行することにした。ジェノの語る今までの苦労話が歳の割に結構ハードだったのと、俺をこの世界に呼んでくれたのはジェノだし、力になってあげてもいいかなと。
それに実はもう一つ理由がある。せっかくファンタジーな異世界に来てこんな身体になったんだし、ラノベでよく見たようなヒロインを体験したくなった。なんでかと言われたらもう俺の頭がおかしいのかもしれないが、そう思ったとしか答えられない勢いでそう思った。
ヒロインがいるならそもそも主人公が必要な訳で、それなら丁度旅にも出るしこのジェノにラノベの主人公みたいな活躍をしてもらって俺はヒロイン体験を満喫する。これぞWin-Winってやつだね。知らないことも一杯あるし、不安もあるけど、そこは俺のチートじみたパラメータと【スキル作成】のスキルでなんとかなるでしょ。
だってさ、野生のモンスターにもランクがあるけど、Sランクのパラメータを1つでも持ってたらAランク認定されるレベルらしいからね。それが4つと魔力にいたってはその上なんだから、大概何とかなるはず。とはいえ、逆に目立ちすぎるからあんまり自由に発揮する訳にもいかないんだけど。
「それで、冒険者ギルドには登録しに行くのか?」
「ああ、俺のテイマーとしての登録と、スプリの従魔登録だな」
ひとまず思考を打ち切って、上機嫌で前を歩くジェノに話しかける。契約の時に改めてお互い名乗って、ついでにステータスの鑑定結果も伝えたんだけど、どちらも詐称した。今まで男として生きてきたせいでチハルって呼ばれるのもなんだかヒロインって気分じゃないし、いっそ女の子らしくしてみた。スプリングからとってみたよ。
そしてステータスは種族:人間で魔力だけEの他は全部Fという貧弱な設定にしておいた。何故かってそれはきっと弱い方が目立たないだろうし、昨今の最強系ヒロインも嫌いじゃないんだけどやっぱり俺としては戦闘苦手な子が好みだからそんな感じにいくことにしたからだ。ラノベ風に言えば、有り金叩いて召喚した女の子が全く役に立たない件とかそんな感じかな?
でも口調とかは今更変えられそうにないから俺っ子で戦闘は気持ち程度の魔法しか使えなくて態度の悪い気だるい系ロリとかいうゲテ物みたいなジャンルで行くことにした。我ながらひどい盛り付けだとは思うけど、これ以外は色々素が出て破綻しそうだから素材の味を生かした結果なので許して欲しい。
「なるほどー」
なんて未だ慣れない可愛い声で相槌を打ってる間に冒険者ギルドの建物に到着したようだ。周りに比べて一際大きな石造りの建物の入り口が目の前にある。
ジェノがさっさと中へ入っていくので続いて入る。
西部劇で見るような扉を押して踏み込んでみると中はロビーになっていて、正面にそのまま進めば黒板くらいはありそうな木製のボードっぽいものに沢山の紙が貼ってあってそれを眺めているであろう人たちも何人か確認出来る。左側にはクエストや依頼・申請・買取関係の窓口で美人な職員さんたちがカウンターの向こうでせっせと冒険者達の相手をしている。
右側には酒場兼用っぽい食堂があるが、今は少し昼時から外れているのか、遅めの昼ごはんを目的にして来たんだろう何人かが静かに食事をしているだけだ。
「あんまりキョロキョロしてないで行くぞ。さっさと登録済ませてやりたいことが山積みなんだからな!」
「分かってるって」
観察するのを中断して、ジェノの隣へと小走りで向かう。何人かの視線を感じるけどまぁ若いジェノと若く見える俺が受付に向かったら目立っても仕方ないか。あるいは依頼をしに来たのかと思われてるのかもしれない。
あまり混雑していなかった為にジェノはすぐに受付嬢の前へと辿り着く。受付嬢は俺たちがカウンターの前に来ると椅子に座ったまま綺麗な礼を見せてくれた。
「冒険者ギルドコウロ支部へようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「テイマーの登録がしたい。あと相棒の従魔登録も頼む」
ジェノの言葉に、周囲で聞き耳を立てていた者たちが若干ざわつくのが分かった。まぁ仕方ないよね。見た目鍛えてそうとはいってもジェノはまだ18くらいの若造で、俺は精神年齢が26歳でも12か13歳くらいだし。
「テイマーへのご登録・・・ですが。失礼ですがその相棒の方はどちらでしょうか?」
困惑しつつも丁寧に対応してくれるのはさすがプロと言うべきなのか。街が賑やかな分こういった職員も教育が行き届いてるんだろうね。戸惑いつつの対応でもジェノは何も気にした様子が無く、俺の頭に手を置いて答える。さりげないボディタッチは主人公の特権だし何も言わず受付嬢の顔を見つめる。
「ここにいるだろ?召喚術で呼び出したらこの子が来ちゃってな。でも確か問題なかっただろ?」
「はい、確かにそれでしたら問題ございませんが・・・その・・・」
「大丈夫大丈夫、戦闘はもっぱら俺がやるし、他に危険なことはさせねぇよ。ただどうしても一人だと色々あって、それはあんたも分かるだろ?」
そう言われて受付嬢は少し考え込んでいる。ギルドの職員として働いている以上、体裁を整える為にテイマーや冒険者に登録する者がそれなりにいることは分かっているんだろう。やがて納得したのか受付嬢は笑顔で案内を始めた。
「それでは、登録の為に【鑑定】を行いますので、従魔に登録される方を奥へお願いします」
登録に必要とのことで【鑑定】を受けたけど、偽装はうまくいったようで結果は狙った通りになっていた。習得したあとせっかくなのですぐに試してみたら、種族とスキルとパラメータをそれぞれ好きにいじれたから、種族は人間で魔力だけEの他F。スキルは【水の使い手】のスキルだけにしておいた。
この【水の使い手】は実際に習得しているスキルで、作成したものだ。なんか水ってヒロインっぽくない?効果は魔力を消費して水を産み出し、操ることが出来る。自由自在に操れるがその分魔力も消費する。そして産み出す量によっても消費魔力は増大する。
これくらいならきっと大したことないだろうし、目立たないだろう。それに、ジェノママに聞いた“ムゲン”の欠陥とも言える情報によってあまり好き勝手にスキルをとれなくなったというのも大きい。必須なもの意外はなるべくそんなに強力じゃないスキルで抑えておかないといけない。その話はまぁその内に。
今は俺の【鑑定】と、ジェノの申請が終わったところだ。食堂の椅子に座るジェノと合流して、呼ばれたので再び同じ受付嬢のところへとやってきた。
「それっではこちらが、従魔用のプレートと、ジェノ様のギルドカードとなります」
受付嬢が差し出したトレイには、片手で親指と人差し指で作った四角の大きさくらい銀色のプレートからFの文字をくりぬいた物と、そのくりぬいたFが左半分に貼り付けられたカードが乗っている。カードにはジェノの名前が書いてあり、右下の隅にはFと書いてある。
なるほど、これがよく聞くギルドカードか。けどもう一つはなんだろう?
「こちらのプレートを従魔の見える位置につけて頂くと、人と契約しているモンスター。すなわち従魔の証となります。そしてこちらのギルドカードはテイマーの方に持っていただきます。冒険者としての身分を表す物なので、決して無くさないようお願いいたします」
俺の疑問が顔に出ていたか、受付嬢が教えてくれる。ふむふむ。
「そしてこのプレートは特殊な加工がされた魔法金属で出来ていまして、くりぬいた部分にのみ反応を示します。なので、このセットがギルドに登録されたテイマーと従魔のパートナー同士の証明となります」
なるほど、ギルドカードには生態認識機能もついてるらしいし、これがあればカードやプレート、従魔を人から奪ったりがしにくくなってるわけか。便利なものだ。
「はーい、わかりました。じゃ、これで登録完了でいい?」
「はい、ご登録ありがとうございます。ランクについての説明は必要ですか?」
「いや、そこは勉強したしちと急いでるからいいや、。それじゃ、ありがとなー。よし、行こうぜスプリ!」
登録が完了したとみるやジェノはさっさと撤収するつもりのようだ。手を振りながら出入り口の方へ向かいたがっている。無事に登録できたなら特に異論もないし、ジェノに合わせるとしよう。旅に出る準備も色々あるらしいしね。
召喚されてから3時間とちょっとくらい、混乱したりバタバタしたりしてた気もするけどなにはともあれ、俺のヒロイン物語がこれから始まるわけだ!
ステータス
名前:スプリ(旧:加賀野 千春)
種族:ムゲン
筋力:S 魔力:X 早さ:S 頑強さ:S 生命力:S
スキル
【スキル創造】
【アイテム作成】
【鑑定】
【ステータス偽装】
【水の使い手】
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