第3話 ドキドキワクワク鑑定結果
「それにしてもテイマーか。俺の良く知ってる異世界とはまた少し違うみたいだな」
余りにも暇なので思わず呟く。今の俺はこじんまりとした部屋の小さな椅子に腰掛けて、ジェノとその母親とやらが来るのを待っていた。
何故こんな状況になっているのかというのを説明するには、少し回想しないといけない。とりあえずブロンスから受けた説明をざっとまとめるとこうだ。
・この世界の名前はグレイアスト
・今いるのはセイルニア王国のコウロという街
・この世界には冒険者という職業が存在するけど、この国では召喚術が発達していてその中でもテイマーと呼ばれる者が主流
確かにある程度のお金さえあれば、ある種運試しとは言っても戦力を補強出来るのは大きい。直接の戦闘に向かないモンスターだとしても、見回りや情報収集等何かと便利だろうし。他の国では技術的にそれほど一般的ではない為にそこまで数は多くないそうだ。
それで、ジェノが俺を召喚した理由もその辺りにあるようで、半ば家出同然に一人旅をするのに戦力が必要だと語っていた。ファンタジーの定番と言えばそれまでだけどやっぱりそこらじゅうにモンスターがいるらしく、ジェノの年齢で一人旅はあまり好ましくないらしい。
「ま、あくまで周りに対するアピールなだけでオレの実力的には一人でも余裕だけどな!」
等と、本人はヤンキーみたいな顔でにやりと笑っていたんだけども。まぁ一人でいるよりも二人の方が絡まれたりと余計なトラブルには巻き込まれないだろうとは思う。
そのまま説明を終えてジェノの母親の営むお店へとやって来た理由は何かというと、本来召喚されたモンスターはそのままそこで種族やステータスの【鑑定】を行う。けど何故か俺のステータスが【鑑定】が出来ず、困り果てたブロンスは、鑑定用のアイテムが古いせいで調子が悪いということで同業であるジェノの母親のところへとやって来たのだった。
まぁ、ブロンスが
「おかしいのう・・・型が相当古いとはいえあんな最安値で最低限度の規模の召喚術で召喚できるモンスターの【鑑定】が出来ないなんてことはないんじゃが・・・。となるときっと故障じゃな」
なんてこっそり呟いていたのがはっきり聞こえたのはちょっと複雑な気持ちだったんだけど。ジェノ、お前の10年間と俺という存在は最安値らしいぞ。
それともう一つ、説明を受けている最中に気づいたことがあった。それは、何故か俺の身体が縮んでいたということだ。
更に正確な言い方をすれば、俺の身体が何故か中学生くらいの女の子になっていたということだ。身長は145cmくらいで、足も腕も腹も胸も、何もかも細い。服も何故か黒のニーソックスに白いショートパンツ、指出しで肘まであるアームカバーにアイドルの練習着みたいな微妙に肩の出たTシャツとキャミソールの組み合わせ。
ちなみに、胸元を引っ張って覗こうとしてみたが、何故か張り付いたように隙間を空けてはくれなかった。残念至極。
ということで、異世界転移したついでに性転換までしてしまった。ついでに、召喚術の対象的に人間までやめてしまった可能性もある。なんてことだ。極々稀に人間も呼ばれるらしいけど、あくまで伝説の勇者とか御伽噺の部類らしい。
そんなこんなで物思いに耽っていると、左手に見える木製のドアががちゃりと開いてジェノが部屋に入ってくる。やっと帰ってきたみたいだ。更に後ろから、銀髪でボブっていうのか、そのくらいの髪をして眼鏡をかけた美人が入ってくる。どうやらこの人がジェノの母親らしい。
「わりぃわりぃ、待たせたな」
「ほんと、結構待ったよ」
社交辞令の一つもなく事実をそのまま口にすると、ジェノは苦笑している。ジェノはそのまま俺の隣までやってきて、近くの椅子を引き寄せて腰掛ける。ジェノの母親は対面に元々置いてあった椅子に静かに座る。美人は美人なんだけど、冷たいというか、どことなく怖いイメージを受ける。なんとなくではあるが顔の作りはうちの母親に似てるんだけど。
「で、ジェノ、営業時間中に私をわざわざ呼び出した理由を聞こうか?」
こいつ、理由も話さずに連れて来たのか。よくついて来てくれたな。
「実はさ、」
かくかくしかじか。ジェノは俺たちがここに来たいきさつを語る。俺を召喚したという辺りで、ピクリと眉が動くのを見たけどとりあえずは最後まで話を聞いてくれた。
「・・・なるほど。フロンスの爺、私に黙ってそんなことを・・・。ジェノも召喚術はダメだと、あれ程言ったろうに」
「まぁまぁ、客商商売な以上爺さんも断れねぇし、禁止って言ったってもう呼んじまったもんはしょうがないし?」
その言葉にはぁとため息をつくジェノママ。なるほど、これで納得がいった。母親に召喚術禁止を言い渡されていたのを愚痴として聞いてはいたが、ならなんでジェノママを頼りに来たか不思議だったんだよな。
どうやら召喚術で呼んでしまったモンスターは帰らせるのが無理か非常に面倒なようだ。
「まったく、仕方ない。お前が呼び出したのはその子だろ?見てあげるからしばらく外にいなさい」
「はいよ。んじゃ、また後でな」
ジェノはどこまでも軽いノリで、手をひらひらと振りながら部屋を出て行った。やったもん勝ちとか質の悪い子供だな。まぁいい歳して無職で親の脛をこれでもかと貪り食らっていた俺が言えることじゃあないんだけど。
「じゃあ、鑑定を始めようか。ブロンスのところと違って私はスキルでの鑑定になる。準備はいらないから楽にしていなさい」
「あ、はい、わかりました」
さすがに母親くらいの年齢ともなると自然と敬語が出てきた。ブロンス?あれは敬う対象とは違う気がするからいいんだきっと。
「【ステータス鑑定】」
俺の頭頂部に手のひらを当てるジェノママの顔を特に身動きするでもなくジッと見つめていると、僅かに顔を顰めるのが分かった。相当に酷いんだろうか・・・。
「これは、驚いたな」
俺からすると驚いているようには全く見えない。どちらかと言うと道端の汚いものを踏んでしまった時のような表情。台詞をつけるとすると「うげ・・・」だ。
そのままの表情でジェノママは説明を始める。俺について、ステータスについて。
生物に対して使う【ステータス鑑定】のスキルや魔法で分かることには三つあり、それは種族、スキル、能力値。種族は文字通りその生物の種を表す。
スキルも文字通り習得しているスキル。ちなみにこの世界では魔法とスキルは全くの別物らしく、魔法だって才能の有無はあるけど、スキルは完全に持って生まれたか何かしらのきっかけで才能が開花するかでしか習得できないもの、魔法は魔力と適正があれば使えるもの、という認識らしい。
現代で例えるなら、鳥が飛べるのはスキルで、人が飛行機等で飛ぶのは魔法ということらしい。この場合の飛行機の部分を魔力でどうにかこうにかするってことだな。だから同じ能力でもスキルと魔法でそれぞれ存在していたり、スキルを習得していても原理や工程が理解できている訳じゃないから伝授することは出来ないが魔法は原理や工程を理解する必要がある代わりに受け継いでゆくことが出来る。
先ほどの話にも出た、【鑑定】が出来る道具等はマジックアイテムと呼ばれている。魔法の術式をその道具が担ってくれている為に魔力を流すだけでその魔法を使用することが出来る。要はスキルのようにほぼ誰にでも使えるが、予め設定した術式を起動するだけであるために細かい調整は出来ないようだ。多分火炎を放つ武器で魚を調理すれば見事な消し炭が出来上がるということかな。
若干話が逸れたけど最後、能力値は筋力、魔力、早さ、頑強さ、生命力の五つをそれぞれアルファベットで表すらしい。一般的にSが一番高くFが一番低い。各項目も呼んで字の如くだ。
それで目の前の超絶クールな感じの美人、ジェノママにとって何がそんなに驚きだったかという話に戻る。
なんと俺、最強のモンスターだった。
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