出会い

第1話 現代社会からの旅立ち

「今日もあっついなー」


 よく晴れた夏の午後、一人で自宅への道を歩く。

今日は近くのデパートでお気に入りのご当地ヒーローのショーがあったので応援して来た帰りである。


 何故26歳にもなってそんなことをしているかというと、答えは簡単、好きだからだ。

特撮だとかヒーローだとか、子供向けだと世間では思われているようだがそんなことはない。いや実際メインの客層は確かに子供なのだが、制作会社的には大人も視野に入れて作っている。

それをよく知りもしないで良い大人が・・・と社会は言う。何歳になったって憧れてもいいじゃないか。


「まぁ、さすがに働いてないのはまずいとは思うけどね」


 思わず一人呟く。

そう、26歳にもなって無職。趣味や嗜好は自由だとはいえさすがにこれは言い訳できない。

出来ない故にするつもりも無くずるずると就職せずにいる。

だって面倒なんだもん。


 さすがにこのままじゃまずいとか、でも働ける気がしないとか考えているといつの間にか我が家に到着していた。

 未だに両親と暮らす我が家の玄関を通って真っ直ぐに自分の部屋へと入り込み、肩にかけていた鞄を床に放り出してベッドへと倒れこむ。布団をしばらく洗っていないためにじっとりとした感触と微妙な臭いが全身を襲う。

しかし今更気にするほどでもないのでそのまま身体の力を抜いていく。


 瞼を閉じて完全に寝る体制だ。

体力が無いためにたまに外出をすると疲れきってしまうのだから仕方が無い。


 それにしても、ガイバスターは相変わらずかっこよかった。

俺の住む県に伝わる神話に出てくる兎をモチーフにしたヒーローで、正式名称は白兎超人ガイバスター。

多くのローカルヒーローと同じく所詮ローカルな人気すら怪しいところではあるが。


「ヒーローっていいよなぁ」


 超人的な力で悪と戦う正義の味方。世の中には色々な系統の作品があるがどれも好きだ。シリーズの全てを視聴したわけではないのは、やはり細かい好みの問題だろうな。

 俺は特撮やアニメや小説の主人公などに強い憧れを持っている。そう、この歳になってもだ。

不思議な力に目覚めて雷を操ったり時間を止めたり龍をその身に宿したり。そして何かしらと戦う。そんな妄想を日常的に脳内で繰り広げている。


「ああ・・・でもそうなると可愛いヒロインも欲しいなあ・・・」


 思考が鈍くなっていくのを感じるが、それは心地の良いもので抵抗はせずに身を委ねながらさらに考える。


 特撮でもいないことは少ないし、アニメやラノベなんかの小説だともういっぱいいる。

新しい女の子が登場すると何故かその都度その都度主人公に惚れていく。主人公も主人公で強く拒絶せずになぁなぁでハーレムを築き上げていく。

実際に有り得るのかと言われると微妙だけど、やはりそこも憧れざるを得ない。男の子だもん。


 そんな下らないことを考えている内に、俺の意識は深い眠りへと落ちていった。







「!?」


 俺は思わず声にならない声を上げて顔をしかめた。

それも当然だ。なんたって突然瞼の向こうから強烈な光を感じたんだから。

いくら瞼を閉じていても、突然明るくなったら驚くに決まってる。

ん?ということは、夜まで寝てて親に起こされたのか?


 混乱していると徐々に光が収まっていく。

それに伴って段々と落ち着いてきたが、そのせいでベッドに横になっていたはずがの俺が地に足をつけて立っている状態だというのを理解してしまった。


「どうなってるんだ一体・・・?」


 まだ混乱しているのか、俺の口からは聞いたこともないような高い声が出てくる。

自分の声は実際に聞くのとは違って聞こえるとは言うが、それにしてもまるで中学生くらいの女の子みたいだ。情けない話だね全く。


 いつまでも混乱してたって仕方がないし、まずは現状を把握しようと思い立った。

瞼を少しずつ開いていくと、さっきまでの光ももう完全に消えてしまったらしく普通の明るさだ。俺は石造りの10m四方の部屋の真ん中に立っていて、3m程先には二人の人物が確認出来た。


「あんたら、誰だ?」


 声を掛けると小さい方、老人の方が黙って頷いている。

もう一人の大きい方に視線を向けると、若そうな方は喜びを隠し切れない声で答えてきた。


「オレはジェノだ。まずは詳しい話をしたい」


それが、俺とジェノとの出会いだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る