側に居てくれる人


2度目の副作用の日々が始まってから5日。


この日はケルシーが先に病室を訪れていた。


「…ジェイソン、調子はどう?」


ケルシーは優しく、笑顔を見せた。


「…調子は、身体が少しダルいぐらいだし、悪くは無いかな」


ジェイソンはそう答えて笑顔を浮かべた。


「…ケルシー、ピアノは大丈夫?」


ジェイソンはゆっくりと話した。


「ええ、大丈夫よ!ダーバス先生も了承してくれてるし…」


ケルシーは笑って話す。


たわいもない会話で2人で少し盛り上がっていた時、ジェイソンが不意に呟いた。


「…僕、死ぬのかな」


ジェイソンは窓の外を眺めていた。


病室の綺麗な窓には、涙を零すジェイソンが写っていた。


それを見たケルシーは目に涙を浮かべ、泣きそうに表情を歪めた。


「…死にたくない…死にたくないよ…」


ジェイソンはゆっくりと顔をケルシーに向直り、ただただ言葉を紡いだ。


ワイルドキャッツすら一度も聞いたことがない、弱音を。


「…死ぬって、どうなる事なのかな」


「死ぬって、なんなのかな」


「死ぬって…2度と、2度と目の覚めない…眠りって…どんなもの、なのかな」


ポロポロと涙を流し、身体を震わせ、ポツリポツリと言葉を紡いでいく。


「…ねえ…」


「…僕を…ぼくを…たすけてよ…ケルシー…おねがい、たすけて…」


涙で表情を歪ませながら、ジェイソンから絞り出された、か細い涙声。


ジェイソンは癌が再発し、死の恐怖に苛まれた事で、肉体的にも精神的にも参ってしまっていた。


ジェイソンは大泣きしながら…ゆっくりと、管の無い方の腕をケルシーに向けて伸ばしていく。


ケルシーは何度も涙を拭いながら、伸ばされたジェイソンの腕を優しく握り締めた。


「大丈夫よジェイソン!」


「貴方は絶対に死なないから!」


「私達が、死なせたりしないから!」


根拠なんて無い。


でも、ジェイソンを支えたい。


その一心で、ケルシーはそう答えたのだ。


「…ケルシー…ケルシー…っ」


ケルシーの手を握り締めたままゆっくりとケルシーを引き寄せ、またゆっくりと抱きしめた。


ジェイソンは、子供のように声を上げて泣いた。


泣きながら、ケルシーをぎゅっと抱き締めた。


温もりを感じられる事、それが…ジェイソンにとって、自分が生きている何よりの証だった。


「ジェイソンごめんね、ごめんね…っ…私、貴方に何もしてあげられない…!」


ケルシーもまた、ジェイソンを抱き締めた。


「側に…僕の側に居てくれるだけ、それだけで…充分だよ、ケルシー…」


ジェイソンは少し落ち着いて来たようで、まだ涙で震える声で話す。


「…それが、貴方に私が出来ること…」


ケルシーも少し落ち着きつつ、呟いた。


「…わ、ケルシーごめん!なんか僕いつの間にかケルシー抱きしめてた!」


やっとしっかり落ち着いたジェイソンは、今しがたの自分の状況に大層驚いていた。


「ううん、良いの!弱音を吐きたくなったら、私がいつだって貴方の側に居て…全部、聞いてあげる…」


ケルシーもまた、自分の置かれた状況に恥ずかしくなって照れ、泣いた後の目に負けないぐらいには顔が真っ赤になっていた。


2人はお互いに恥ずかしいやら照れ臭いやらで、表情がはにかんでいた。




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