第10話 変わらない

「ありがとう」


シャクシャクとした氷に混ざり、抹茶のような濃い緑色をした柔らかい綿毛のような二ミリ程の草がびっしりと生えているところへ獣を降下させたリリィラは、大きな嘴に軽くキスをした。

すると獣は嘶き、鋼のような翼をガシガシと瞬かせながら竜巻のように空へ空へと登っていった。


「ありがとう!本当に、ありがとう!」


ビタはブンブンと空へてを振った。


「腰」


爪が短く、深爪気味に切り揃えてある指でリリィラはビタを指指した。

そこには抜け落ちたであろう、二十センチはあろう獣の羽根が張り付いており、慎重に剥がしてみればとても硬く、小刻みに揺らしてみると空気をヴィンヴィンと鳴らす。


「きれぇだね」


ビタは満足げに斜めがけのポシェットのような上質な革でできたカバンにそっと羽根をしまい込んだ。


「不死鳥、と呼ばれているのよ」


ビタが一息ついたのを見計らったのかリリィラがそう言った。


「不死鳥?」


「ええ」


「呼ばれているだけなのかい?」


「個体じゃないの、種族として不死って意味らしいの」


上空で確認したマーケット方面へゆっくりと足を進めながら二人は会話を続ける。


「ワカンナイ、でしょ」


リリィラは親しみを込めて鼻で笑った。


「ノーデルの人間のせいなのよ」


「…リリィラ?」


「ノーデルは奴隷大国でしょう?昔からなのよ、珍しい生き物や種族をモノとしてしか見てないの」


ビタは気まづそうに足の先っちょを見つめる、それに気づいたリリィラはハッとしたように眉を八の形にして目尻を下げた。


「ごめんなさいね、ちょっとムキになったみたい」


ビタは首をブンブンと振ってからリリィラの手を握って顔を覗き込むように見つめた。


「マーケットに着いたらビタと一緒にビスケットを食べよう?」


「あんたの奢りならね」


「ぴぇっ…」



どんなに狩り、絶滅するほど数が減っても次の春にはまた何処からか大きな群れを引き連れてくる。

“絶対に滅びない不死鳥”

非常に賢く、原始の賢者とも呼ばれる漂鳥だがその正体は謎に包まれている。

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