第7話 被害者面

“この世界”についていくつか説明しようと思う。


この世界では“魔法”、そして“属性”というものが存在する。

属性は全部で六つ、火・水・土・風・闇・無ーー

“無”というのは、例えば離れた場所にあるものを引き寄せたり、物を浮かせたり、場所から場所へ転移したりするなど、名前の通り火や水を使わない魔法のことで、言わば“普段使い用”だ。

他の五つは、名前の通り。火や水などを操作したり“生み出したり”、その属性の精霊を操ることができる。


魔法を使えるか否かは、生まれ持った素養で決まる。何も選ばれた特別の人間であるということではなくて、ただ単に剣が巧い物や機械に強いものがいると言った程度のものなのだが。

しかし、“一部”の者たちはそうは思わなかった。


魔法こそが、世界で最も尊ぶべき事であると、信じて疑わなかったのだ。


事実、魔力を上げるとされている(いずれも眉唾もの)、若い人魚の鱗、鳥型獣人の嘴、南の山岳地帯に住む半人半獣の耳、処女おとめの舌など、これらの“密漁”が後を絶たず、問題となっても“どこからか”かかる圧力でなぁなぁに済まされてしまうしかなかった。

一部の国でのみ信じられていたのならまだしも、いくつもの国で多発していることとなると、火のないところになんとやらと思ったのだろうか、それがまるで真実かのように扱われ始めてしまったのだ。きっちり裁かれぬこともそれに拍車をかけた。


そして、一部の傲慢な魔法使いや魔道士たちはやはり自分たちは“他”とは違う崇高な存在だからこそ“お小言”さえ頂かずに済んでいる、むしろ“お前たちなんかを使ってやっている私たち”に感謝するべきだと、考えるようになってしまったのだ。


しかし、圧力と言えど被害者や遺族、それに近しい者の怒りが鎮まるはずもなかった。中立を明言している大教会、言わば魔力を有する者達の総括に助けを求めた。


代弁者(神の御名みなを引き継いでいる大教会のトップ)は“預言”した、このまま他者を虐げる理不尽・横暴が続けば世界は滅びる、と。


皮肉なことに、これが戦争の幕開けとなったのだった。


預言を聞き“報復”を恐れた魔術師たちは金にモノを言わせ獣人や人魚を無理矢理奴隷商人に引き渡し自分たちから遠ざけた。

これに激怒した大教会、代弁者は数千もの魔法使い・魔術師を破門、魔法石を使い彼らの魔力を封じ込めたのだが、自らの誇りを踏み躙られたと猛り狂った者共が他国の同じ立場の者と手を組んで各地の正教会(大教会に行けない人々の為に各地に造られた小さな教会)を破壊放火するなど蹂躙するだけに留まらず、獣人たちに内戦を起こすように仕向けるなど暴虐の限りを尽くした。

そして、ついに堪忍袋の尾が切れた他の魔術師や魔法使いとの争いが始まった、撒かれた種の繁殖力は凄まじく“普通”の魔法使いたちを狙った暴徒の出現、多くの国の国境に魔獣が放たれ隣国同士の関係は劣悪を極めていた。


そんな中動いたのがセード王国だ。

元々武力国家であり“戦争屋”とも呼ばれ宗教の力が弱かったセード王国では被害は少なく、他国よりも多くの魔法使いや魔道士などが“残っていた”。

セード王国に伝わる神話の“悲劇”全く同じ一途を辿っていると憂いた大神官が国王に呼びかけ、“千年の魔女”に予言を求めた。

いわく「異世界からの遣いを呼び出すこと、神に認められた勇者足り得る其の方が全ての争いを鎮める勇者となる」と、それからは早かった。国中に兵を派遣し、少しでも魔力を有する者を王都へ呼びつけ召喚の儀を行なったのだった。


結論から言えば勿論、成功した。


異世界から召喚された勇者・皆宮大雅みなみや・たいが


彼はまさしく“勇者”だった、真面目で心優しく、王から直々に聞いたこの国の現状に憤慨した、頭も悪く無い、魔力や魔法素養も申し分なく、剣の覚えも中々のものだった。


人々から期待されている勇者様、希望の象徴。

彼が召喚された日は奇しくもサヤがこの世界へ来てしまったのと同日であった。

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