第2話 Domination
ヒロムの不安は杞憂などではなかった。
しかし、ただの冴えない学生である彼に『それ』への対処など出来るはずもなく、彼の体は吸い込まれるように廊下の奥へと引きずり込まれていく。
いつも鍵がかかっているはずの玄関が開いていた。
それだけであったはずなのに、その先に待ち受けていたのは正に奇奇怪怪の光景であった。
どこにでもある2階建ての一軒家の玄関を慎重に開けた。
その瞬間、
しかしそれは
いくらもがこうと体に絡まったそれが
そうしているうちにヒロムはリビングに投げ出された。
遮光カーテンが閉められていて、薄暗い。
そこには大量の触手をうねらせる濃緑色の何かがあった。
これが一体何なのかは見当もつかない。
しかし、その触手が数本伸びた先には母、妹、弟の3人がグルグル巻きにされていた。
「母さん!……達!」
「おいふざけんな略すな」
弟のセイヤは縛られているが、至って元気そうだ。
妹のマコも縛られている他はいつも通りだ。
しかし、その他にも見知らぬ人間が数人いて、彼らは何やらおもちゃの銃のようなものを片手に提げている。
みんな髪は白く、肌も雪の様に澄んでいる。
体つきは棒のように
そのうちの一人が何やら聞き取れない言葉を呟いたかと思うと、一足遅れて機械音声が語り掛けてくる。
「お前も人質だ。大人しく縛られろ」
その言葉が聞こえるやいなや、母たちを縛っている触手の塊のようなものから1本の触手がヒロムに向かって伸び、逃げる間もなく体に巻き付いていく。
あまりきつく縛られてはいなかったので、何とか抜け出そうと体を動かすが、触手は生きているように動き、ヒロムを逃がさない。
「一般家庭に侵略するなんて卑怯にもほどがあるな、地底人さん」
ヒロムは直接見たことこそなかったが、その特徴から自宅へ侵入し家族を監禁している犯人の正体が地底人であるということは分かっていた。
手に持っているのも、人間を超えるテクノロジーが用いられた武器の一種だろう。
「これは戦争なのだよ、地表人くん」
グループの中で1番年上に思われる地底人が嫌みな笑みを浮かべて語り掛けてくるが、全て翻訳されて機械音声が流れてくるので目の前の彼と会話をしている実感がどうにも湧かない。
「あんたらなんてあっという間にヒーローに蹴散らされておしまいなんだけどな」
「今日は陽動隊がヒーローたちを惹きつけている。たとえ奴らがやって来ようとも、人質のお前らを見れば仕掛けてこれまい」
「まあ、ヒーローをあんま舐めない方がいいと思うけどな。お前らなんてあっという間にお陀仏だ」
なぜなら……
すると突然、勝ち誇った顔の地底人の後ろから、
後ろから……
ならば正面から……
んん、じゃあ上から……
あれ?下は……?
「無駄だ。ヒーローと戦ってきた私だから分かる。
そんなポンポン出てくるもんじゃない」
「なぜそれを!?」
ヒロムの算段とは、『ピンチに陥ったのだから念じればヒーローが出てくるだろう』という行き当たりばったり的なものだった。
しかしそれで本当にヒーローが来るはずもなく、ヒロムは打ちひしがれるのみである。
「怪しい動きでもしないか、脳内の思考を読み取ってたんだよ。
その触手――ムルグルス――でな」
「ちくしょう……」
「ほう、巨乳激カワ魔法少女……か」
ヒロムは日々妄想している内容が漏らされ、顔が一気に赤くなった。
「え?巨乳……?」
母の耳に入ってしまっていたようで、さらに焦りだしたヒロムはうやむやにしようと叫びだす。
「ああああああああああああああ!!!!!うっぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「どうしたのお兄ちゃん……おかしくなっちゃったの!?」
妹のマコは至って真剣にヒロムの様子を心配している。
「
ヒロムを縛っていた触手が、ギリギリと絞り上げる。
体にどんどん食い込み、ビクとも動かせなくなってしまう。
ヒーローがやって来る気配もなく、もしやこの地底人というのは恐ろしい存在なのではないかとヒロムたちは思い直すのであった。
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