第四章  小さな冒険

チリ一つ無いルート246の歩道の脇にゴミのように動かない白いぬいぐるみ。


そこへ、よろよろと近づく男の姿があった…

まるで浮浪者のような身なりの年老いた人間。この時代、路上生活者は存在していないのだが…


「うへえーーー。懐かしいねえ」白いぬいぐるみを拾い上げる男。


アメディオは、この男に助け出された。

このままもう少し歩道に転がっていたら定期清掃ロボットに見つけ出され廃棄施設へ運ばれてしまい分解処理の末、各種リサイクルチップに姿を変えていた所だ。

認証タグのついた赤いベストを無くしてしまっているために、単なるゴミと判断されるのだ。


2時間後、所得保護者用の単身者アパートに住む、年老いた男がアメディオを再起動させていた。


「おーい。聞こえるかい!お猿さん」

呼びかけに反応し ぴくっ と体を動かした。

視界が回復し男と目線が合う。

「ついでに最新のシステムを上書きしてやったからな」と男は人差し指でアメディオの小さなおでこをなでながら説明をする。


見つけたのは、偶然にも昔、ペッピーノ社の玩具開発部署に勤務していて定年をむかえていた男だった。

この男は、昔の本業の腕前を発揮しアメディオの外界認知性能をアップさせ、更には、記憶メモリーも可能な限りデカイ容量に積みかえてあげた。


「ついでに、気になったところも色々直してやったからな!お前さんと同型の最新量産モデルの3倍は高性能だぞ。ハハハ!」

「体の色は白のままだからな!赤くしてやっても良かったけどな!ハハハ!」



すくっと立ち上がったアメディオは、軽く2回3回と宙返りをしてから周りをくるりと見渡した。


男は、立ちあがり玄関のドアを明け、「さあ行きな!大事な人をさがしているんだろ!!」


大きくジャンプし、わずか2歩で外へ飛び出す。機能アップされて初めて体験する別世界に驚いていた。


周りが…すべてが…何もかもが…ハッキリと認識出来る。


「まるで別世界だ」


「あっ!」思考と発声が完全にリンクしていた。


思ったこと、感じたことが制限無く言葉に出きる能力を得ていた!!

うれしくて、更に2回、3回と宙返りをした後、走り出した。


走りながら同時にネットへ接続させ、眞瑠子(まるこ)を探した。

機能アップされて、生まれ変わったアメディオは、即座に眞瑠子を見つけた。


僕が眞瑠子の所に来たとき、10歳だった彼女。10歳の時の顔データから今の20歳の眞瑠子(まるこ)を推測したのだ。


「いた!!眞瑠子だ!」


社会管理知能から受け取った眞瑠子の現所在地は、ココからは、遠くなかった。

たった2区画先に眞瑠子は、住んでいたのだ。


走った。

そして、叫んだ。


もう僕は、もう何でもしゃべる事が出きるんだよと!


アメディオからの通信を受け、急いでマンションから出てきた眞瑠子も、マンションを出た数メートルの歩道上に立っていた。

あっ!こちらを見つけたようだ。


まるで本物の子猿のような素早さで到着し、無意識に、いつもやっていた眞瑠子の周りを2周すばやく回り眞瑠子の右肩に跳び移りホッペにキスをした…


「もう絶対、絶対離れないよ。眞・瑠・子…ぜったい!!」



それはアメディオが落下してからわずか5時間後の再会…そして、小さな猿の小さな冒険の終わりだった…

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