2.静かなる剣豪、此処異世界と知る




「ふぅむ、これは楽しめそうじゃ」



今現在、私はそれなりに数いる獣らに囲まれている。

牛、虎、羊、鳥、犬、猪、熊。

それぞれがそれなりに大きく、また数も多い。

右手に持った刀を振るい、首を斬り飛ばす。

左手で拳を振りぬくことで、頭蓋が砕け、脳味噌が飛び散る。


既に地は無数のしかばねで埋まっており、草木は倒れ血の池ができあがっているほど。



「ホホホ、そのような単調な動きで、私を捕らえることはできんぞぉ!」



そう声をあげながらも、私は次々と獣たちを屍に変えていく。

地が埋まるほど味方が死に、今も死が溢れているというのに、獣たちは一向に私への攻撃をやめようとしない。


私としては以前のように、いや、以前”よりも”数段動けるようになっているこの体を楽しめるので、まったくもって問題ないわけじゃがな。


と突然、仲間の死体に隠れていたのであろう犬が、目の前に出てくる。

その決して小さくない腕が振るわれ、その先の爪が私を襲うが、私は愛刀でそれを容易たやすく斬り飛ばし、逆に犬のまなこに刀を突き入れ、脳を破壊して殺す。



「グルァァアアア!!」



刀を突き刺している今がチャンスだと思ったのであろう。

後ろをチラリと見ると、殺意にまみれた熊がその両腕で私を潰さんと振り下ろすところであった。

だが――、



「遅いの」



突き入れた刀を抜き、そのまま繋げるように後ろにいる熊の腕を斬り飛ばす。



「グオオオォォォオオン!」



斬られたことによる痛みか、はたまた悲しみの雄叫びか。

熊は耳をつんざくような大声をあげ、自分の斬られ地に落ちた腕を見ている。



「鳴いても無駄じゃよ」



そして私は、そんな隙だらけの獲物を逃すほど甘くはない。

刀を振り、熊の首を斬り飛ばす。


ふむ、そろそろ数も少なくなったのぉ、と残りの獣たちを見やれば、どうやら臆してしまったようだった。

先ほどまで波のようにきていた攻撃が嘘のように止み、みな素早く後退していく。



「ホホホ、これはまさしく地獄絵図……いや、ここは地獄の一丁目、と言ったほうが正しいかの」



おどけたことを呟きながら、私は血で”塗れていない”刀を鞘に仕舞う。


残念ながら、この中にも食べれるようなものはないようじゃ。



「断食にも慣れてはおるが、やはり食べたいものじゃのう」



食への想いをせながら屍の上に座っていると、突然無数の矢が降ってきた。

私は刀も抜かずに、死体の隙間に”潜り込んで”それを回避する。



「なっ、やつはどこにいった!」


「わ、わかりません!」


「チッ、魔法で探知しろ! 絶対に見つけ出す――」


「ホホホ、そうはさせんよ」



襲ってきた男達がすこし騒いでいる間に、私は屍の海を泳ぎ、すでに司令塔と思われる男のところへと回っていた。

そして司令塔の男と同じ木の枝に立ちながら、腰だめに持つ刀をゆらりと抜く。



「っぐ、総員か――」


「やらせんといいよろうに」



司令塔の男がなにかを言い終える前に、男の四肢をまるでV字を描くように斬り離し、返した刀で首を斬り飛ばして、残った胴体に蹴りを入れた。

私に斬られた全ての部品パーツは、重力に従い地に落ちる。

他の仲間とおぼしき者達は、それを見ていっせいに顔を青ざめ退散していった。



「ぬぅ、逃げてしまうとは、獣よりも肝が小さいのう。残念じゃ」



決してあの者達よりも統率がとれていたわけではないが、無謀であれ向かってきた獣たち。

やつらのほうが、まだ良いほうじゃった。



「ぬ? よく視るとこやつ……見たことない”色”をしておる。どれ、もうすこしよく視てみるかの」



特別なことなどはしていない。

しかし私には、確かに”ソレ”が見えていた。


黄……いや、緑か、こんな色はありえないはずなんじゃがのぉ。

ふむ、この耳がすこし”長い”のも関係しておるのかの。

確かこの前の仕事で、紅眼コウガンノがこれに関する話をしていたか。

たしか、異世界の定番! エルフ! じゃったかな。


異世界、異世界のぉ……私が見たことすらない色を目の当たりにしたのじゃし、ここは異世界ということなのかの。

ま、そうでなければあの犬っころや、この獣たちの説明がつかぬか。

うぬ、これはこれでまだ見ぬ楽しみが増えたの、ホホホホホ。


して、日が沈みよるし、しょくは諦めて今日はもう木の”中”で寝るしかなさそうじゃな。


私は刀で木の一部を深く切り抜き、そのまま切り抜いた木を取り出し、刀を鞘に収めたのちその中に潜る。


ホホホ、やはり木の中はあたたかくてよいのぉ、ただ木の上で寝るより幾分いくぶんもマシじゃ。

さてはて、明日こそはなにかしら口にしたいものじゃてのう……。


そう思いながら、私は意識を深く沈めていった。



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