オルタナティヴ・ムーン

 唯一つ、星が出ていた。

 雲は一つもなかった、と思う。


 昨日空に浮かんでいた月はなくなっていて、空には唯一つ、星が出ていた。


 今は五時半で、あれは一番星。

 月明かりのない空は、どこか物足りなくて、寂しくて、哀しかった。


 その日の風は冷たくて、コート一枚羽織って出てきたのに、やっぱり寒かった。


 信号機のカラフルな光とか、街灯の青白い光とかが、しっとりと濡れたアスファルトに反射して、なんだか綺麗だった。


 人工灯の光だけが僕を照らしている。短く、濃い僕の影が地面に映し出される。


 もし、今この瞬間に全て人がつくった光が消えたなら、いったいどうなるんだろう。

 あの星は、もっと輝いて見えるのかな。

 もしかして、あの星の光でも影ができるのかもしれないな。




 月の代わりに燦然さんぜんと輝く一番星を見て、僕は、そんなことを思った。

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