《鳩》

 電車のドアが開かれる。初めて来る駅だった。


 改札を抜けると例によってショッピングモールのような内装が広がる。

 北関東ではそこそこ大きな部類に属するであろう。


 道幅は無駄に長く、天井は無闇に高い。その割には日曜日だというのにひどく閑散といていた。


 これまた無闇やたらと長い出口までの道を進む。


 “ようこそ〇〇県へ”という大きな垂れ幕、現地の名物を紹介するポスター、夏祭りの宣伝のポスター全てにいわゆる“ゆるキャラ”というやつが全て同じ表情同じポーズで大写しされていた。


 ついに駅の外に出る。どうやらこちらが北口で間違いないようだ。


 気の利いたものは特に無かった。


 近くにはシャトルバス乗り場があり、日差し付きのベンチがある。一般的で小さな噴水が中央にあり、その奥には中途半端な高さのビルが立ち並ぶ。


 ——そして足元には鳩がいた。


 駅前の鳩は大嫌いだ。


 人に飼い慣らされた動物たちに抱く感情と似た嫌悪感。自分で狩りをするのではなく、他人ひとに与えられたものを喰らい続け、いつしか自分の力を忘れ、うしない、他人に頼るほかなくなってしまう。


 豊かさゆえの貧しさ。

 与えられたからこその怠慢。


 足元の鳩を見やる。すぐ近くにそれはある。


 一歩ほどもないこの距離に私がいるというのに鳩は全く動じず、首を振り地面に落ちているのであろう食料をついばむ。私のことなど全く意に介していない様子である。


 動物本来の姿からは遠くかけ離れたこの有様。この上なく醜悪で、穢らわしい生物の成れの果て——。


 半歩程までに詰め寄る。鳩は動じない。


 そして、右足を振り上げてみる。鳩は動じない。もう一度振り上げる。鳩は動じない。


 なんと醜いことか。




 ——右足を、振り、。鳩は動じない。


 ——鳩は動じない。

 ——鳩は動じない。

 ——鳩は、動じ、ない。


 衝突の瞬間の僅かにまえ、ついに鳩こちらを見上げ————。




 ぐちゃ。


 周囲に短く悲鳴が聞こえた。

 靴を持ち上げらとかって鳩だったそれはと真っ赤な血液と灰色の体毛を絡ませ、こちらを見上げたまま生き絶えた。



 私は、もう一度、右足を振り上げ————。




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