ぬばたま幼女と僕の夜。
「——あなたの髪の毛、食べていい?」
一文字、一文字が確かな質量を持って耳に飛び込んでくるようなその声を僕は聞く。
その声は小さかったけれど、どんな大音量の目覚まし時計よりも効率的に、僕の目を覚ますことに成功した。
「あなたの髪の毛、食べていい?」
それらの音たちは僕の鼓膜にキッチンの油汚れみたいにこびり付き、一瞬にして僕を、夢の世界から現実へと引き戻した。同時に僕はひどい寒気を感じる。
そして、僕は目を開ける。
すると、僕の目に、てらてらとした黒い二つの輝きが映った。顔が瞬間的に強張る。
僕にはそれが人の目だとわかるのにずいぶん時間を要した。
起きたばかりというのもあるだろうが、何しろ僕の顔とそれとはあまりにも距離が近すぎたのだ。僕の目の焦点距離の内側、つまりは僕の目から一センチのところに《それら》はあったのだ。
「あなたの髪の毛、食べていい?」
三度目の声。三度目の音たち。テープレコーダーで録音したかのように一度目、二度目と同じ声。
三度目の声を言葉としての意味を僕が理解するのは少し時間がかかったが、それが少女の声であるということは、瞬時にわかった。
危機を感じ、身体、脳が急速に覚醒する。総毛立つ感覚とともに、僕はその状況を客観的に捉え始めていた。
布団で寝ている僕の上に、小学校高学年くらいの長い髪の少女のが馬乗りになっている。
そうとしか考えられなかった。
その少女は、僕にその事実を疑わせるほどに軽かった。中身のないキャラメルの箱のように軽かった。
——、——。
定刻を示す掛け時計の重厚な音が部屋に転がった。
それが何時を示すものかは僕には判らない。
月明かりが、真夜中のその部屋に入り込んで、少女の二つの
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