夏と、君と、スイカバー

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「あぢぃいいいいいいいいいい」


 コンビニを出た途端に七竈ななかまどユカはメチャクチャ顔をしかめてこう言った。


「夏なのにそんな格好してるから暑いんだろ……」


「これはあたしのアイデンティティなのッ!」


 思いっきり睨みつけられた。


 なぜだか知らんが、彼女は一年中ゴスロリ衣装に身を包む。今日もまさかの長袖である。


 こんな田舎町だと物珍しさでじろじろ見られるから、本当にやめてくれ、最近は常々そう思う。付き添いの俺の気持ちも考えてくれ。


 七竈はコンビニで買った氷菓スイカバーを取り出し、大口を開けてかじりついた。


 今日は本当に暑かった。ニュースによると、今年の最高気温を更新するらしい。


「……今日の夜、雨降らなければいいわね」


 七竈の首筋を、一筋の真っ赤な液体スイカバーが伝う。


 俺にはなんだかそれがみたいに見えた。


 ——。

 ————————。


「……そうだな」

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