19.The last spell of the witch.
その日は晴れていた。雲一つない快晴だ。焔はこの乾いた風で、どこまでも強く燃え盛るだろう。僕はこの場から動けずに、自分の身を焦がすこの焔に焼かれるか。
「なにか最期に言うことは」
十三番がこう聞いた。僕を火炙りにする、松明を片手に持ってこう聞く。めらめらと煌くそれは、フードで顔を隠す十三番の顔を照らして僕に見せた。
「今日はいい天気だけど、雨が降りそうだね」
十三番は間の抜けた可笑しな顔をして、僕と同じ顔が変に歪むのはちょっと面白い。
「頭でもおかしくなったか」
「別に僕は可笑しくないよ」
嗚呼、やっぱり面白いよ。十三番が言うには、ケイティはもう牢から出されて、僕が処刑されるのを、どこかで見ているらしい。それは僕に都合がいいこと。彼女が牢から出ているなんて、名前を取り戻した僕にとって不足はない。
「お前、なにか企んでいるな」
「全然。気のせいでしょ」
「なにか目立ったことをしたらただじゃ置かないからな」
「魔導書もないのに出来る訳ないでしょ」
白々しくも、僕はとぼけてみせる。十三番は僕の頭が可笑しくなったとでも思っているだろう。時計塔の針が、きっちり真上を向く正午まではあと数分。観客は上々ってもんだね。
本当に物好きな奴ら。人が死ぬところが見たいのかよと、僕は前々からこう思っている。こう見下ろす立場になってもそう思う。
でも、残念。僕、死ぬつもりないからさ。
「ふぅ」
ペトロがかつてそうだったように、僕もまた、エゴイスティックな人間に過ぎないのだ。ある意味ユダのように、裏切って死ぬならそれで全て終われるからいい。でも、僕らは生きねばならない。師匠に恩を返すために、生きねばならない。
自分が死ねば、師匠は自分に「生きてほしかった」と思っているかもしれない。師匠が自分にかけた魔法は、この先僕が師匠のために命を投げ出さないようにする為だ。そう思うことはエゴに過ぎない。
本当にそうかは確かめようがないのだから。
「……Oh Mother」
なるべく小声で囁くように。絶対に聞かれちゃまずい。
「Earth please come to me. Make it rain down like the summer seas. Oh Mother Earth please come to me in my time of need,」
ケイティ、気付け。君の主人はここに居る。
「This is my will, So Mote It Be.」
三回繰り返す前に、僕は全てを終わらせるのだから。
嗚呼、母なる大地よ、私の元へ来たまえ。
雨を降らせよ、夏の海のように。
嗚呼、母なる大地よ、私の元へ。
必要のある私の時間だから。
これは私の意志であり、そうあたらしめよ。
その日。一人の魔法使いが、処刑台から逃げ出した。
どこから来たのか分からない雨雲が、数メートル先の人影もかき消し、嵐で松明など、ただの木の棒になった。
逃げた魔法使いの居場所は分からず。
ただ、全てが終わった後に見えた天を覆う七色の虹は、見るもの全てを圧倒させたという。
これはそんな昔々のお話。もう何百年も昔のお話。
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