6.I wish it was a love medicine.
「あの」
「なに」
僕は図書館を出て、初めに僕が訪ねた扉の前にいた。
「……僕は図書館の中にいると思ったのに、もしや君がお使いに僕を呼びに来たってことかい」
「うん!」
「五番ちゃ……」
「ルネ!」
どうだ、と胸を張る少女に僕は何も言えない。ため息は吐こう。それぐらいはいいはずだ。
「ルネちゃん、同居人はちゃんといるんだろうね!?」
「いるよー!」
「本当に!」
「ほんとー、だよー」
「本当に本当だね!?」
「もー、うるさぁい」
ルネは文句を言いながらそのドアを開けた。鍵はかかっていたはずなのだ。僕はドアに鍵がかかっていないのかも、あの時に確認した。でも、彼女は何もせずにガチャリとドアノブを回した。魔法がかかっていて開かなかった、その推測が正しく適切な表現だ。
「解除魔法か……」
「ささ、入って入って!」
ドアが閉まるとまた鍵がかかる。ドアを閉めるだけで発動する特殊な魔法がかけられているのだろう。ガチッと金属が嵌る音がした。
「僕はどこに座ればいいんだい」
「どこでもいいわよ?」
「他には誰がいるんだ」
「九番と十一番ね。知ってる?」
聞いたことはあった。僕の前に実験を受けて、失敗作となりながらも生き残ってしまった者だ。目の前にいる五番の彼女も僕の前だった――。
僕が実験を受けて直属となり、師匠の下で学んでいた時、彼らの研究調査は僕がしていた。
五番目の弟子であるルネは、時間が進んだり戻ったりしている。実験を受けた十八の時から幼児の年齢まで戻り、ある歳からまた進むのだ。戻る時間はゆっくり二年かけて一つずつ年を戻していくが、進む時は一年で一つずつ年をとる。その周期を繰り返す為、僕が会うたびに彼女の年齢が違うのである。ある意味、規則性があるといえばある。
逆に九番目は時間がハチャメチャに進み、規則性が無いと聞いた気がする。ルネのように何年かに一つずつ年を取るなどがなく、本当にめちゃくちゃで日によって時間の進みが違うのだ。
そして、十一番目は老化がとんでもなく早く、普段は人為的に時間を止めていた。
生き残ったのが良いことなのか、とは僕には言えない。副作用などない最高傑作の僕は、彼らのように失敗作でも、死ぬことがなかった者に「生きていただけいいじゃない」と言う資格なんてない。
「十一番か……」
「まだ恨んでるみたいよ?」
「そうだろうね」
最高傑作の僕は度々失敗作の彼らになじられた。特に十一番が僕を嫌う憎悪は大きかった。
「どんなことを言われるだろう」
僕の他に成功した者、それは十三番だけだった。僕と当時同じ年だった彼は、僕が実験を受けてからだいぶ経った後に実験を受けた。そして彼はその次の日から姿を消し、僕が師匠の元から離れていた時に師匠を告発した。
十三番は裏切ったのだ。
「カモミールか」
カップから立ち上る湯気を嗅ぐ。
「好きだったわよね?」
これを好きだったのは師匠だった。研究室にいつも持って行ったハーブティー。朝持って行き、二人で飲むのがいつもの日課だったっけ。
「うん」
大好きだったよ、師匠。
これを持って行った時の貴方の笑顔が、僕は大好きだった。
僕が好きだったのはこの味じゃない。
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