人生相談ってむずかしい 2
しばらくして苧島は大きなため息と共に口を閉じた。
おそらく全て言い終わったのだろう。
そう考えるとため息ではなく深呼吸であったのかもしれない。
俺はやっと理解できたことの重要性について考えていた。
要約すると、苧島に対する噂を元に苧島が今、いじめのターゲットになっているということらしい。
先生にも、親にも相談できないから俺に相談したということだ。
頼られていると思うと少し嬉しいところもある。
しかし、この俺に一体何ができるのだろうか?期待通りの行動ができるのか?
確かに俺は学年の中でもそれなりに有名でそれなりに人気者である。
それでも、あくまでそれなりであって、俺は絶大な権力を持っているわけでもなければ、何かをまるまる動かせるほどの力を持っているとも思っていない。
というより、今まで考えたこともない。
俺は最善の手段を考えるべく頭を抱え込んだ。
幾度となく、この空気を襲った静けさが再び到来する。
誰も声を出せないであろう空気が3分ほど続いた時。
そのアイデアは俺の脳裏をぱっと明るく照らし出した。
「やっぱり・・・無理な相談ですよね」
一切の間をおかず俺は慌てて口を開く。
「いや、ある」
俺の一言が空気に溶けていった、その瞬間。
苧島の目はぱっと光に包まれた。
「本当ですか!」
言葉の刹那。
苧島は片足を後ろに上げて飛びついてきた。その動きの軽快さから、いかに喜んでいたのかが見て取れる。
「一体どのような作戦でしょうか?」
苧島の表情を確認したあと、俺は風が過ぎ去るのを待った。
「そんなもんは簡単だ」
そう、本当に簡単なんだ。
しかし、その作戦にはたくさんのリスクがある。
俺はそのリスクを承知の上で作戦を淡々と話し始めた。
全て話し終えた時、苧島の表情が曇っていくのを感じた。
「それでは・・・山木さんに多大な迷惑がかかってしまいますが・・・」
「俺はそれを承知の上でこの作戦を実行することにしたんだ」
苧島に何か言われる前に・・・俺の気持ちが変わらぬ前に、この屋上から離れよう。
そう決断した俺はあっさりと苧島に背中を向ける。
そして、入口に向かって早歩きで進み始めた。
「待ってください山木さん」
後ろからきこえてくる必死な声。
しかし、俺は足を止めず階段を下った。
俺の教室は4階に位置していて4階建てのこの建物としては最上階に位置している。
もちろん屋上を除いての話だが。
それも、最もはしにある9組だ。
つまり、俺のクラスは学年で一番屋上から近いということになる。
なぜか笑みを漏らしながら苧島が追いかけてくるよりも先に教室へと逃げ込んだ。
今日の一時限目は数学だった。
黒板に複数残った連立方程式が無回答のまま放置されている。
同じものがノートにも書かれていることを確認して、俺は椅子から立ち上がった。
そして、額にハチマキを装着する。
そう、次の授業は体育なのだ。
しかも、持久走という名の地獄。
あ~、今この瞬間に風邪ひいたりしないかな~。
うんありえないな。
いや、待てよ、俺、少し頭痛くないか・・・。
咄嗟におでこに手を付けて確認するが・・・どうやら体温はいつも通りらしい。
まぁ、最初から気のせいであったのだろうが。
俺は大きなため息を吐きながら無数にかけられる声に適当に受け答えしていった。
って、適当なのかよ・・・。
持久走前の憂鬱さになんとか耐えながら、外へと向かうべく学校指定靴を足に押し込む。
「お~い、走れ!」
体育担当の左扇先生(まぁ、残念ながら俺の担任なのだが)が満面のえみで俺たちを呼んでいる。
まだ授業開始まで5分もあるのに気が早いものだ。
というかグラウンドにまだほとんど集合してないじゃないか。
「はい!」
それでも全力で答えておこう。
あの人はこういう挨拶が好きだからな。
俺は全力でグラウンドの中央まで走っていった。
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