人生相談って難しい

 いつもより明るい階段。


それはこれらかの生活が明るいことを予知しているのだろうか・・・いや、違うな。


そもそも明るい未来とは一体何のことなのだろうか?。


どこからどこまでが明るくて、どこからどこまでが暗い未来なのだろう。


自分が楽しいと思えば主観的には明るい未来ということになる。


しかし、その行動が周りから見れば明るくないものであれば、それは客観的に見て明るい未来とは言うことができない。う~ん、



「日本語って難しいな」



俺の一言を聞いていたのか隣から



「大丈夫ですか?」



と一言声が聞こえてきた。


気が付けば階段を上りきり教室の前に俺は立っていた。


右斜めしたから飛んできたソプラノ声はおそらく苧島のものだろう。



「お、おう。すまん。大丈夫だ」

「それなら良かったです。頭がおかしくなってしまったのかと思ってしまいました」



あっさりひどいこと言うな~。


しかし、どうやら本人には悪気がない。その証拠に純粋そうな笑顔で笑っている。



「そうか。俺の頭が正常で良かったよ」



小さな溜息と同じくして、俺は教室に向かって歩きはじめた。


数歩進んだとき、再び耳をソプラノボイスが揺らす。



「あの!」



随分と力んだ第一声。


俺は慌てて後ろを見る。



「えっ、え~と・・・相談があります。私を・・・助けてください」



まるで俺が振り返るのを待っていたかのように見事なタイミングで言葉が送られてきた。


見方によってはこれは愛の告白にも見える。


しかし、「助けてください」の言葉からしてこれは告白などではないだろう。


ここでなにかとんでもない相談をされた時、俺的に言わせてもらえばめんどくさい。


俺は周りよりも少しだけおとななのだ。


少なくとも自分ではそう思っている。


つまり、俺にとってそんな相談ごときはもはや「出来事」ではなく「面倒」にしかならないのだ。


いつもの俺なら・・・かつ、相手が苧島ではなければ即答で拒否していたところだろう。


しかし、今回の相手は苧島だ。


俺は過去に何度となく苧島にはお世話になってきた。


なにか困ったことが会った時はいつも苧島に相談していたし、俺が間違えた行動をとった時に正しいことを言ってくれるのはいつも苧島だった。


幼なじみというほど古い中ではないのだが一応小学校からの友達なのだ。


だからこそ、俺は彼女の相談を聞いてやるべきだし、できる限りの行動はやってやるべきである。


そう意識を決定づけ、俺は苧島と目を合わせた。



「わかった。ここで話すのもなんだしもう少し人気がない所に行こう」



俺の提案に大きく頷いた苧島はロングの髪をワンテンポ送らせて腰まで垂らし、方向転換した。


そして、落ち着いたスカート丈を揺らしながら歩いて行く。


何気なく俺は苧島についていった。


一言の言葉も交わさずに真っ直ぐに向かっていった先は普段、生徒進入が禁止されている屋上の扉。


どこから持ってきたのか彼女はポケットから鍵を取り出すとそのカギ穴へと差し込む。



「ガシャ」



鍵を開ける音の癖にやたらと大きな音だ。


いや、これから起こるであろう危機に体が自然と反応していたのだろう。


俺は一瞬寒気を感じ、両肩を両手でさすった。


扉の角度が開いていくに連れてだんだんと差し込む光。

俺は一瞬瞬きを繰り返した。


「ここ・・・というのはどうでしょうか?」


一応俺にも選択権があるらしい。


とりあえず頷いておくことにした俺であった。



「それではどうぞで入ってください」

「本当に大丈夫なのか?ここの鍵って教師しか持っていないんじゃ・・・」

「そこは大丈夫です。私の机に置いてあったので」



いやいや、大丈夫じゃないだろう。


いったい誰がおいたいたんだ?それは本当に苧島のために置かれたものなのか?そもそもどうしてそこを疑わない?俺はいろいろ気になる点があったが入ってしまったものは仕方がない。


扉を閉めておけばきっとバレることもないだろう。


諦めて苧島が話し始めるのを待つことにした。



「え~と、今日は天気がいいですね」



へへへ、と小さく笑いをこぼす苧島。しかし・・・



「今日は曇っているのだが・・・」



確認のために俺は再び空を見あげた。


苧島からは再び小さな作り笑い声が聞こえてくる。



「そっ、それじゃ・・・今日は・・・」



おそらく先が思いつかなかったのだろう。


苧島はしばらくの間口を瞑ってしまった。


数秒続いた空気に耐えられず俺は頭をかく。



「で、本題はなんだ?」



空気が氷河期に突入した。


なるほど、彼女にとってよほど言いにくいことらしい。


愛の告白でないことくらいわかっているが、多少緊張してしまうのは仕方ないことだろう。


空気を覆っていた氷河期は苧島の揺れるスカートの音によって過ぎ去っていった。



「あの・・・私を・・・助けてください!」



再び空気を氷河期が包み込んだ。


それと同時、俺の脳みそも凍結していく。


うん?今・・・彼女は何といった?いやいや、何をどう助けて欲しいんだよ。


俺が眉間にシワを寄せて考えていると苧島は少し迷って再び口を開いた。



「すみません、それだけじゃわかりませんよね。私が言いたかったことは流れてしまったある噂を消して欲しいということです」



もともと暗かった表情をさらに暗くする苧島。


どうやら、今までよほどの不安になっていたらしい。


苧島は淡々と俺に噂について話し始めた。

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