第17話 お互い様だろ

優奈:相手が男だとも知らなくて鎌かけてたみたいで、やっぱり……とか言ってた


優奈:どうしよう、私、余計な事言っちゃったかな……


優奈:これでお母さんやお父さんが二人の事に反対したりしたら……


 かなり切羽詰まった様子でコメントを連投していて、その焦りようも窺えた。

 俺が突然の事に絶句している間にも、コメントは流れる。


美羽:落ち着いて、その時のお母さんの様子はどうだったの?


優奈:特に何も。雑談みたいな感じで話してたんだけど、急に真剣そうな顔になって……


 俺としては別に母さん達に稲葉との交際を否定されてもそもそも付き合ってないのでなんの問題も無いのだが、それを今、+プレアデス+が言う事はできない。


 そんな事を考えていると、中島かすみからライン通話がかかってきた。

「将晴、コレはどういう事だにゃん……」

 電話口で聞こえてきた声は随分とご立腹のようだった。


「こんな面白そうな事、どうして鰍に黙ってたにゃん!!」

「……うん、そう言うんじゃないかと思ってたよ」

 予想を裏切らない中島かすみの言葉に、俺は力なく答える。


「とにかくどうしてこういう事になってるのか鰍に聞かせるにゃん」

 そうして俺は、+プレアデス+の収入により親の扶養を外れる事になり、これを期に両親へタレント活動について打ち明けた事もを話した。

 優司と優奈にはこの事は内密にしてくれるように頼んだ事も。


「その時に、母さんに今恋人がいるかって聞かれたから、いるって答えたんだ……その時はそれで終ったんだけど、家に帰ってからその事を優奈に聞いたみたいで……」

「話は大体わかったにゃん……そんな時は鰍に任せるにゃん!」

 中島かすみは待ってましたとばかりに声を上げる。


「いや、今回は俺の方でなんとかする」

「にゃにゃ!?」

 しかし、俺はその申し出を断る。


 なんというか、中島かすみに頼むと、一応解決はしてくれそうだけれど、同時に一体どんな面白おかしい設定が付加されるか、わかったものじゃないからだ。


「将晴は、鰍じゃ不満なのかにゃん?」

「いや、そうじゃなくて、今回のは俺が実家にそうじゃないって連絡入れれば済むだけの話だしさ、後でちゃんと報告するから、鰍は大人しくしててくれ」


「……わかったにゃん。そういう事なら鰍は大人しく待ってるにゃん。その代わり、終ったらちゃんと鰍に報告するにゃん」

「ああ、わかった」


 もう少し食い下がってくるかと思っていた中島かすみは、事情を説明すると、案外あっさりと引き下がった。

「じゃあ、さっさと連絡するか……」

 俺はスマホから直接春子さんのスマホに電話をかける。


 何度かの呼び出し音の後、春子さんが電話に出た。

「もしもし、母さん? この前の事で、もしかしたら誤解があるかもと思って連絡したんだけど……」

「だ、大丈夫よ将晴! 将晴がたとえどんな人と付き合ってても私はあなたの味方だし、お父さんには私からちゃんと説明しておくから!」


 単刀直入に本題を切り出すと、春子さんはかなり動揺した様子でとんでもない事を言い出した。

「いや、説明しなくていいから! ……じゃなくて! 母さんはもしかしたら何か勘違いをしてると思うんだ! 俺の恋人っていうのは女で……」


 しかし、俺の言葉を遮るように春子さんが言う。

「いいの……! 優奈から大体の事は聞いたから、嘘なんてつかなくていいの! あなたはあなたの生きたいように生きていいんだから……!」


 どうしよう、完全に俺の恋人が稲葉だと思っている上に、なんかそれを全力で受け止めようとしてくれている。

 その気持ちはありがたいのだが、全くそんな事実は無いので少し落ち着いて欲しい。


「いや、本当に稲葉とはなんにもないんだ!」

「やっぱり、相手は稲葉くんなのね……そういえば、高校の時から仲が良かったものね……」

 しかし、ここで突然稲葉の名前を出した事によって、余計に春子さんの考えに確信を与えてしまったらしい。


「違っ……!」

「良かったら、今度稲葉くんも連れて帰ってらっしゃいよ。皆には私から言っておくから」

「母さん!?」


 その後は、あれよあれよと言う間に押し切られ、気が付いたら稲葉に予定を相談して、近いうちに二人で俺の実家に行く事になってしまった。


「……どうしよう」

「マジか……」

 翌日、俺は稲葉の住むマンションで、事の顛末を語った。


 流石の稲葉も、俺が両親にカミングアウトした結果、まさか自分の方に流れ弾が来るとは思っていなかったようで、随分と驚いていた。


「それで稲葉、ものすごく悪いんだが今度の土曜、一緒に俺の実家に来て誤解を解いてくれないか……? 電話で話してもらちがあかないんだ」

「まあ、それが一番だな……」


 心苦しく思いながらも稲葉に頼めば、稲葉はため息をつきながらも了承してくれた。

「本当にゴメン」

「気にすんな、お互い様だろ……」


 稲葉が力なく笑う。

 その言葉に、俺はなんとなく今までのコイツとの出来事を思い出す。


 婚約者のフリをさせられ、雨莉にからまれ、しずくちゃんにつっかかられ、美咲さんに迫られ、他にも色々……。

 ………………うん、お互い様だな。

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