第2話 紳士的?あなたは誰…?
静寂の中で誰かがすすり泣く声が聞こえた。まるでそれを切り裂くように
「おじさん、そういうのやめたら?…立派な大人がみっともないよ。」
とある男の子が放った言葉にみんなの目がいき、その間に言われた側であろう人は人ごみに紛れていった。
追いかけていくも見失ったのか、泣いていた子に「ごめん。」と言った。
その男の子の様子や、すすり泣く子を見る限りおそらく痴漢だったのだろう。
しばらくしてから、電車は動き始めた。男の子はずっと襲われた子の様子を見ていた。
私も少し気になったのでその子を見ていた。その子と言っても男の子の方。
確かあれは同じ学校の制服のはず。同じ色のネクタイだし、同級生かな。
ずっと見ていたら、向こうがこちらに気づいたので、さすがに目が合うのは困るし、視線をそらした。
学校は遅延として扱ってくれたので遅刻にはならずに済んだ。
そして、あの男の子はやっぱり同じ学校だった。へぇ~ってレベルだけど。
それよりも、遅れてしまった授業のほうが心配だった。うちの学校は県立では有名な進学校だから授業スピードが半端ない。いなかった間に課題が出てないといいんだけど…
席について用意をしていると隣の子が
「遅刻じゃなくてよかったね、問題はここまでしかすすんでないよ。」
「心配してくれてありがとう、教えてくれて助かるよ。」
その子はなぜか頬を染めながら「どういたしまして!」と言った。熱でもあるのかな?
学校が終わる頃には雨も強くなっていた。昇降口の前に今朝の男の子が傘も差さずに立ち止まっていた。
(傘忘れたのかな…?まぁああいう人には“彼女”とかいるんだろうし…)
ぼぉーっと考えながら見ていたら目線があってしまい…すぐに逸らしたが、時すでに遅し
「あぁ!!今朝電車にいたよね!…へっくしゅん!!!」
「えっ!はい!というか、大丈夫でs「「ぶえっくしゅん!!!」
雨に濡れた彼にタオルを貸した。風邪を引いた人を置いて帰ることもできないし…
「あの、歩けます?ここじゃ寒いですしどこかで温まったほうがいいですよ。」
「うー、さみぃ…わかってるんだけど、傘なくて…何処にも行けなくて。」
やっぱりなぁと思った。
「傘、入れてあげますから…カフェでも行きますか?これから行こうと持ってたんで…」
「ほんとに!?ありがとう、面目ない…」
少し気が引けたが、しょうがないと言い聞かせて傘に入れてあげた。少しの辛抱だ。
カフェに着いて、店員は大きなタオルを男の子に渡した。男の子は「お礼に奢るから少し話してこうよ!」と言ってきたから、断りきれずにOKしてしまった。一番奥の席、外の人から目のつかない場所に案内された。
「本当にごめん!めっちゃ迷惑かけたな!名前なんて言うの?」
「
「おぉ!じゃあクラスは隣だ!俺は
自己紹介なんて変な感じがした。それから、彼は色々と話してくれた。今朝の電車でのことも。彼の趣味が読書と聞いて驚いた。私の好きな小説もマイナーなのに知っていて、人とあまり仲良くできなかったから、こうやって話せるのが少し嬉しかった。
「下坂さんって、本の話してるとき輝いてるね。」
えっ!微笑みながら言ってきたその言葉はドキッとした。
「あのさ、もし良かったらで良いんだけどさ…明日もこの場所で会えないかな?あっ変な意味はないよ(汗)もっと下坂さんの好きな本とか知りたいんだ。お互いのオススメを持ち寄ったりしてさ!」
「…あなたがいいなら、私は別に構わないよ。」
嬉しそうに帰りの用意をしている上野君がかわいらしく見えた。友達のいない私に久しぶりにできた小さな約束。…あっ別に変な意味じゃないわよ!
――――――――続く
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