空〈あなたとわたし〉

恋音(れおん)

第1話 雨に降られて…

 「あれ、雨が強くなってきたよ!」「ほんとだぁー!」

陽気な子供の声でその雨に気付いた。

今から傘をさしても大して変わらないだろうと思ったからそのまま歩み続けた。



びしょびしょに濡れて帰っても心配する優しい家族の声なんてない。

わたしは一人暮らし。高校生一人にしてはちょっと広い部屋に机とパソコン、あとは生活に必要な道具だけ。女子力とやらを感じない部屋だけど、特に支障はない。


そんな私の唯一の趣味は音楽だ。今まで興味を示したものの中で一番好きだ。

きっかけは引っ越してきたばかりの頃、地形を把握するために外に出たときに聞こえた歌だった。あの日は雪の降る寒い日だった。



「いつの間にか空いた距離に、私は気づかず君と過ごしてた。

気づいた時にはもう遅くて、君は隣にいなかった…」



なぜか耳に残るフレーズだった。少し自分と照らし合わせていたんだろう。涙が出た。

初めて音楽が誰かを救うものだと思った。自分もこんな歌が生み出せるようになりたい。

それから、少しずつ慣れない音楽を聞き始めた。

私は高校に入ってから変わってしまった。出会いと別れというのはわかっていても、受け止めきれない現実を押し付けてくる。あることをきっかけに昔は大好きだった写真が嫌いになったりもした。そんな自分に音楽は少しずつ光を与えてくれた。



 次の日


早起きをしてニュースを確認した。お天気のお姉さんは今日も元気に話してた。

「本日もまた午後から激しい雨が降ります。傘を忘れずに!」

折り畳み傘を片手に玄関を出た。

「昨日の雨のせいかな、水たまりが多いや…今日は電車かな。本もあるし、まぁいっか。」



電車に揺られて30分くらい、そこから学校の指定バスに乗る。普通に通学していた。

だけど今日は普通じゃなかった。

(なんだか今日は混んでるな…人との距離が近い…)

ガッタン!!…ガタン…ゴットン!!…

突然強く揺れた。電車内にアナウンスが流れた。

「込み合う時間の中大変申し訳ありません。ただいま強風につき……」

不運なことに、この混みあった電車は台風の影響でしばらく停車するらしい。


焦るサラリーマンがぎこちなく周りをきょろきょろしていた。そりゃ遅刻は嫌だもんね、はっきり言って私も嫌だわ。でもついてないとしか言えない。時間が経つとあっという間に乗客は静かになって、動き出すのを待っていた。


だが、そんな静寂の中で誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。



――――――― 続く

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