5粒

その時、背後でドアが開き、来客のベルが鳴り響いた。

風と雨音、水溜まりを踏むビシャビシャという音が店のなかに入ってくる。


「いらっしゃい。大変な雨でしたでしょう?......て、お客さん!? いくらなんでもその格好は無いですよ!」


店員が大笑いしている声が聞こえた。陰鬱な湿気を吹き飛ばすような笑い声に、思わずフェリシティ達も店の入り口を見る。


「いや、僕も何がなんだか......」


ウェットスーツに機材一式、ボンベを背負った男がそこに立っていた。ひどい嵐のなか、スキューバーダイビング格好で客が現れたら、そりゃあ笑うしかないだろう。何の冗談かと、店員が体をくの字に折り曲げて笑い泪をぬぐっている。


それを見たコリンズ氏が勿体ないと叫ぶ。


それよりも大きな声でフェリシティは彼の名前を呼んだ。


「ウィリアム!?」


彼女の大切なひと。

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