くろいぬ


最終電車に乗って家に帰ってきた。


そんな私の家の側に一匹の黒犬が居た。


片足をひきずっていたけど、私は何も思わず、ただ、彼を見た。


彼はこっちに来た。


彼は喉が乾いているようで、汚れた水の入ったバケツに頭を突っ込もうとしたが、


そのバケツは取れない蓋があって、飲むことはできなかった。


私は蓋を外そうとしたが、無理だった。


無理だったので、自販でお茶を買った。


でも、彼は飲まなかった。


変な所で潔癖症な私は彼を撫でなかったし、抱き締めなかった。


その代わり、歩いてコンビニまで行っておにぎりを買おうと思った。


彼が食べるか、私は知らない。


ゆっくり歩いて、でも呼ばない。


彼は途中でタクシーの運転手に呼ばれて、私は彼とはぐれた。


私は彼が居ないのにコンビニでおにぎりをふたつ買った。


ひとつは彼のためにシャケ。


戻ると彼がいた。


彼におにぎりを渡すとタクシーの運転手が来て、


なにも食べないんだ、と言った。


でも、私は寄って来た彼を撫でておにぎりを彼に渡した。


その時、遠くから別のタクシーの運転手がやってきた。


彼は急に激しく吠えたてた。


その運転手は彼に好意的に見えた。


私にも。


でも、私はその運転手をちらっと見ただけだったし、彼はその場を離れた。


私は彼のおにぎりを持って後をついて行った。


ずっと彼に手を伸ばしていると一度だけ、彼は私の手をなめた。


その上の崩れたおにぎりをなめてくれたのか、わからない。


私は少し嬉しかった。


きっと私の前では食べてくれないだろうと思って、私はおにぎりを置いた。


そして、歩き、トイレで手を洗う。


そして、少し遠回りをして家へ戻る。


彼が、追って来ないように。


ずっと、その食事の後も彼がついて来ないことをどこかで祈っていた。


そんな私の前で彼が食事をするはずもなく。


そして、ずっと思っていた。


のらいぬに餌をあげてはいけない。


一度の偽善の心が彼らをもっと不幸にするから。


責任の取れないことをするべきではない。


そして、それは他人に迷惑がかかることでもある。


彼がそこに住み着いたら、他に住んでいる人達の迷惑になるから。


でも。


私が彼だったら、どうしてほしかったろう?


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