メリーさんのきもち

 つめたいリビングの床に放り出されて、あたしの胸の中はとてもぐるぐるしてた。



 まーちゃはよくこんなことをする。あたしはまーちゃのこと大好きなのに、時々ひどく冷たい仕打ちをするんだ。


 あたしに、もっとリスペクトしてください。


 いつも思うのに、いつも伝わらない。


 まーちゃはあたしをギュッと抱きしめてくれて、いつもあたしを一番にいろんな所に連れてってくれる。寝るときはあたしがまーちゃのマクラの代わりだ。


 だけど、たまに機嫌が悪いとき、あたしをボール代わりにぼんと放り投げる。蹴っとばす。踏み付けて、そのまま忘れてしまう。


 もちろん、あたしの体はやわらかいから蹴られたって体がズキズキと痛むことはないけれど、代わりに胸の奥のほうがギュウッと痛くなる。


 まーちゃの気まぐれに、いつもあたしはどっと疲れちゃうのだ。そんなときはよく「まーちゃがあたしのことキライだったら」って思う。だったら、あたしは今みたいにあたしの中の行き場のない愛情にさいなまれることもないのにって――――そんなフシギなことを思ってしまうんだ。まーちゃを好きなのはあたしの気持ちなのに。


 まーちゃがあたしをギュッと抱きしめてくれるとき、あたしはとってもしあわせ。好きなまーちゃにやさしくされるのは、ときどき忘れてしまうくらいにとってもうれしい。


 でも、こっそり思ってしまう。小さなちょっと四角い座ぶとんかたちのあたし。すこし固くてすぐ毛玉ができるあたしじゃなくて、もっと手足の長い人形の方が、まーちゃは思いっきり抱きしめられるんじゃないかって。





 夕日の差し込むリビングの床に、くろい影が伸びてきた。


 知らんふりで転がっているあたしをまーちゃの手がわしづかみにする。そのままリビングからまーちゃの部屋まで連れていかれたあたしは、ベッドの上でギュウッと抱きしめられた。



 もしかして、と心がずくずくとうずいた。


 あたしがいつも感じているような、風にゆれる布を相手にしているみたいな手ごたえのなさをまーちゃも感じているのかもしれない。


 あたしはいつも体ぜんぶで「大好きだよ」とさけんでいるつもりだけど、声のないあたしの声が聞こえなくて、まーちゃも不安になることがあるのだろうか。もしかして、ほかの気持ちがわからなくなって、ときどきとてもさびしくなるのはあたしだけじゃないのかも。



 あたしは、困ってしまってまーちゃを見上げた。乱暴なまーちゃとどうつきあっていけばいいのかわからなくなった。


 まーちゃのそばにまーちゃが好きなあたしがいれば、まーちゃはちょっとはしあわせかなあ。



 だったら、もうちょっと信じようかな。


 あたしのこころの中のカラッポをうめることができるのは、ほんとうはまーちゃじゃなく、あたしのほかのなにかを信じるこころだって気がついた。きっと、信じてこころのカラッポがすくなくなれば、あたしはもっと毎日をやすらかな気持ちですごせるってことに、いまさらながら気がついた。


 たとえ、いつかは物置きに押し込められちゃったってね。



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