002 うちのおとうさん
うちのおとうさんは、「わるものがお」です。
おとうさんは保険のセールスマンです。おとうさんは真面目で、いやなお客さんがうちまで押しかけて来て、無理なことを言っても、ニコニコして接客していて、とてもりっぱだと思います。
でも、おとうさんの顔は水戸公門に出てくる悪いひとに似ています。だから、おとうさんがどんなに一生懸命接客しても、お客さんが信じてくれないことがあるみたいです。特に最近は保険のサギ事件のようなものがたくさんあるみたいで、うちのおとうさんは大変みたいです。いつも、疲れて帰って来たあと、お風呂に入って、ビールを飲んで、お茶づけを食べます。それからわたしが寝たあと、こっそり鏡に向かって笑顔の練習をしています。口のはじを手でおさえてミッキーマウスのような顔で笑う練習です。だけど、おとうさんはミッキーマウスではないのでその顔はちょっとこわいです。だから、そんな練習はやめた方がいいと思います。
そんなおとうさんでも、わたしをたまに怒るときがあります。それはわたしがお風呂でいつまでも遊んでいたり、いつまでもゲームしてテレビをずっと一人で使っているときなどです。おとうさんはもともと顔がこわいので怒ると本当にテレビの悪ものみたいではく力があります。でも、わたしがいつまでも泣いているとまゆげが八の字になってとても困った顔をします。そのときの顔はハチベエみたいで、とってもおもしろくてわたしはいつも笑ってしまいます。
お母さんはおとうさんが若いとき、時代劇の主役の人に似ていたと言っています。でも、わたしはそれはお母さんのひいきだと思います。おとうさんはその話をお母さんがするといつも怒っているような嬉しそうな顔で笑いますが、なにも言いません。たぶん、照れているんだと思います。
うちのおとうさんはとてもいい人なので「悪もの顔」ではありません。「わるものがお」です。わたしは、わたしと遊んでくれているときのおとうさんの顔がとても好きです。おとうさんの顔は「わるものがお」だけど、わたしはそんなおとうさんの顔が大好きです。
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