第2話

「…づる、千鶴!起きろ千鶴、入学式遅刻しちゃうよ。」

あれ、夢から覚めたはずなのに木之実ちゃんの声がする。おかしいなぁ。まだ夢の続きなのかな?

「うーん、あと20分だけ…。むにゃむにゃ。」

「20分も寝たら確実に遅刻だよ!おいこら、起きろよ。くっ、こうなったら、うおりゃ!!」

ーバサッー

ふ、布団が!?えっ?誰?

「こ、木之実ちゃん!?何で私の部屋にいるの?」

「まーだ、寝ぼけてるな。私たち今日から高校生で、千鶴は一人暮らしでしょ。で、朝の弱い千鶴のためにわざわざ、起こしにきたんだよ。」

そうだった。すっかり忘れてた。明日の朝迎えに寄るって言ってたっけ。あれ?でも迎えにくる約束はしたけど、どうして部屋に木之実ちゃんがいるんだろ?

「ねぇねぇ木之実ちゃん。どうして私の部屋にいるの?」

「それはな、千鶴のお母さんから千鶴が一人暮らしなんて心配だから、どうかよろしくねって言われて、そんで合鍵貰ったの。」

そんなことが。もう、お母さんったら心配性なんだから、恥ずかしい。

「千鶴、お母さんったら心配性なんだから、って顔してるけど、私が起こしにこなかったら遅刻だよ?」

うっ!耳が痛い。というか遅刻!?

「そうだよ!遅刻しちゃう、木之実ちゃん、今何時!?」

「8時50分ちなみに入学式は9時半ね。」

「あわわわ、ごめん!今すぐに準備するから、よいしょっとうわぁっ!」

ーバタンッ!ー

「千鶴、大丈夫?焦って布団足に絡ませて転ぶって、漫画じゃないんだから。ちょっと落ち着きなよ。」

「うん、ごめんね。」

うう、痛かった。でも、痛がってる場合じゃない、えーと着替え着替え。あれ?

「シャツとブレザーどこ〜!?」

「窓側のクローゼットにかかってたよ。」

「ありがと。」

次は、スカートをって、スカートもない!

「スカートなら、タンスの上から二番目に入ってるよ。」

「ありがと!」

次はタイツ、あっ買い忘れた!

「どうしようタイツない…。いっそ裸足で!」

「はい、ストップ落ち着いて。そんなことだろうと思って、ほらこれ買っといたから。」

「め、女神様!?」

「何言ってるの。いいから早く履きなって。あと、寝癖凄いよ?」

うわぁー!!本当だ、髪が凄いことになってる。

「どうしよう!朝ごはんも、歯磨きもあるのに!間に合わないよぉ…。」

とりあえず、朝ごはん抜いてでもこの寝癖はどうにかしないと、入学早々、クラスの笑い者になっちゃう。

「髪とかしてくる、朝ごはん抜けばなんとかなると思う。木之実ちゃん先に行っていいよ!木之実ちゃんまで入学式に遅れちゃう。」

「はぁ〜、仕方ない、私がとかしてあげるよ。」

「いやいや流石に悪いよ。もう色々迷惑かけちゃったしこれ以上はかけられないよ。」

そうだ、いくら幼馴染で大親友で、好きな人だとしても、いや好きだからこそこれ以上負担をかけちゃいけない。嫌われたくないから。

「何を今更。千鶴がおっちょこちょいでドジで、私に迷惑かけまくるなんてとっくの昔からで、いつものことじゃん。」

うぐっ、言い返せない。

「でも、そんな千鶴が好きだから、世話焼きたくなるんだよ!うわっ私今、凄い恥ずかしいことを!」

「木之実ちゃん…。」

ああ、やっぱり私の好きな人だ、優しくて、恥ずかしがり屋で。自分で言ったセリフで顔真っ赤にして。そういうところが好きだって思う。

「ありがとう、木之実ちゃん。私も木之実ちゃんだーいすき。」

「う、うん。あっ!あと、朝ごはん抜くのはやっぱり体に悪いよ。」

「わかってるけど。でも、時間がないよ。」

そうこうしているうちに、時計の針は、9時を回っているし、このままじゃ二人揃って遅刻しちゃう。

「簡単にだけど、私が準備しといたからさ。千鶴が食べてる間に私が髪とかせばいいよね。だから早くキッチン行こう?」

「そんなことまで…。本当にありがとね。」

う、うわぁ、いざキッチンに来てみたらすごいことに。トーストにスクランブルエッグ、生野菜サラダ特製ドレッシング添え。

「コーヒー入れるから椅子に座ってなよ。」

「木之実ちゃんは、いいお嫁さんになれそうだね。」

「そうか?」

「うん、私が保障するよ。」

できれば、私のお嫁さんになって欲しいなぁ、なんて。

「はい、コーヒー。」

「へぁっ!あ、ありがとう。」

「ん?どうした、いきなり変な声あげて。」

「なな、なんでもないよ、美味しいねこのドレッシング。」

「お、マジか、よかった。結構自信作なんだ。」

凄くドキドキした。いきなり顔近づけてくるんだもんそりゃびっくりだよ。あんなこと考えてた直後だったわけだし。

「それじゃあ、髪とかすね。」

うう、食事に集中できない!

「あ、千鶴シャンプー変えた?いい匂い。くんくん。」

「変えたよ。変えたけどさ。なんで匂い嗅いでるの!?恥ずかしいよ!」

「あはは、ごめんごめん。でもほら、髪もだいぶ良くなったし早くご飯食べちゃいなよ、歯磨きも忘れるな〜。」

「お母さん…!」

「あれ、さっきはお嫁さんて言ってたような?って誰がお母さんだ!」

「じょーだんだよ。いきなり髪の匂い嗅いできた罰だよーだ。」

「はいはい。よし髪はバッチリだぞ。」

「モグモグ、よしごちそうさまでした。ありがと。助かったよ、木之実ちゃん。」

「お粗末さまでした。いいってことだよ。さぁ次は歯磨き行ってこい、私は外で待ってるからさ。」

「はぁーい。」

ふー、お腹いっぱい。さて、急いで歯磨きしなきゃ。

ーシャカシャカー

「ぶくぶく〜ぺっ、よしオッケー。じゃないこのヘアピンをつけないと。今度こそバッチリ!」

このヘアピンはちゃんつけないとね、だって木之実ちゃんからの始めてのプレゼントだもん。さてと、木之実ちゃん待たせてるから、急がなきゃ。

ーガチャー

「お待たせ、木之実ちゃん!」

「おっ、やっと学校行けるな。行くか、はい。」

「手?」

「どうした?不思議そうな顔して。中学の時、何時も手繋いで登校してたじゃん。あ、嫌になった?ならよすけど…。」

あ…、そんなさみしそうな顔しないで。

「嫌じゃない!嫌なわけない。」

「そうか、じゃあ早く行こ。」

「うん。えい!!」

「ちょっと、ええ!?なんで腕にひっつくの!」

もう、木之実ちゃんは鈍感だなぁ。

「腕組みして行こう。ダメかな?」

「し、しょうがないな。分かったよ、それじゃ行こうか。」

えへへぇ、木之実ちゃんの体、暖かい。

「あんまり、ひっつくなって歩きにくいだろ。少し急がないと間に合わないぞ。」

「はーい。でももっとくっついちゃう!」

「こ、こら!この私に逆らう気か?ならこうだ。よっと!」

うわっ!お、お姫様だっこ!?さすが運動部、じゃなくて!

「ねぇ私、重くない?」

「軽い軽い。これでも鍛えてるから。走るよ!」

え、嘘、ストップしてー!怖いって!わぁー!!

「ふぅ、いい汗かいた。もう遅刻はないな。」

「い、いい汗かいたじゃないよ、もう木之実ちゃん!」

本当に怖かったよ。後半は、木之実ちゃんの腕の中だ、えへへって若干楽しんでたけどさ。

「悪い悪い、お詫びにほら思いっきりくっついていいから。」

「…ずるい。」

「うん?なんか言った?」

「ううん、何にも言ってないよ!じゃあ遠慮なく、くっつくね。」

木之実ちゃんいい匂いー。ずっと、こうしていたいな。

「千鶴、ありがとね。」

「へ?何が?」

「受験勉強の時、根気良く教えてくれて。おかげで、志望校入れたし。」

「いやいや、それは木之実ちゃんの実力と努力の賜物だよ。」

実際、木之実ちゃんは努力家だと思う。中学の部活だってそうだった。水泳部のエースだったけど、誰よりも早くプールに行ってだれよりも遅くまで練習していた。普通じゃできないことだと思う。

「受験勉強だけじゃなくてさ、一緒の高校行こうって約束した時、私の成績じゃ今の高校危なくて、そしたら千鶴、自分の受ける高校のランク下げるって言ってくれたじゃん?あれ、めちゃくちゃ嬉しかった。あの時、本気だったの?」

「うんもちろんだよ。だって同じ高校行こうって約束したもん。」

「私も同じだよ。約束守りたかったし、私のために千鶴の自由を犠牲にしたくなかったから。」

「か、カッコいい!木之実ちゃんは、凄いね!」

「いきなり素のテンションに戻るなよ!恥ずかしいだろっ!」

「えへへ。」

「はぁ、千鶴には振り回されっぱなしだな。まあでも、こうしてまた千鶴と一緒に登校できて嬉しいよ。千鶴は、どう?」

嬉しい。嬉しいに決まってるよ!

「うん!私も木之実ちゃんと一緒に登校できて嬉しい!高校で、もっと仲良くなれたらいいね!」

「もっと、仲良く?もっとって…!おま、千鶴それは!ううう…いいや、私たちは、あくまで親友で!」

あ、あれ?なんか俯いて顔赤らめ始めちゃった?なんで?

「どうしたの?木之実ちゃん?」

「うっ!な、何でもない。それより、急ぐぞ!遅刻ギリギリなんだから!」

「待ってよ木之実ちゃん!速いよ!」

わ、私なんか変なこと言っちゃったかな?

「本当にどうしたの?」

「別に何でもない。私は変な想像なんて断じてしてないから!」

変な、想像?

「何それ?ふふ、変な木之実ちゃん。」

「ち、千鶴にだけは、変って言われたくない。あっ、校門だ。」

「本当だ。なんとか間に合いそうだね。」

「うん、一時はどうなることかと思ったけどな。間に合ったんだしいっか。さあ行こうって、なぜ袖口を引っ張っている?」

「えと、せーので一緒に学校に入りたいなぁって。」

「何だそりゃ?」

あわわ、私またトンチンカンなことを。

「ごめん。私また変なこと言っちゃったね。」

「別にいいよ。じゃあさっそく手繋ごう?」

「そうだよね、嫌だよね。」

ん?

「いいの?」

「とくに断る理由なんかないじゃん。」

「木之実ちゃん…。うん!ありがとう、じゃあ手繋ぐね。」

「お、おう。どんとこい?」

手を繋ぐと気持ちまで繋がっているみたい。意識するとすごくドキドキする。これから始まる3年間で絶対この想い、伝えてみせる!

「「せーの!!」」

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ゆりこん! @hanakuzuyuri08

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