第25話
「暁ちゃん、俺東京に行きたい。一人で暮らす。」
「何を唐突に。お前今まで地元志望だったじゃないか。一時の感情で考えなしに返るのは先生、賛成できないぞ。」
家族と居たい、春陽をそばで見守りたい。凛雪と共にこの町で。そう思っていたのは事実だ。それでも変えなきゃならない。だって、凛雪が隣に居なきゃ、そんなものなんの意味もない。
「事情が変わったんだもん。」
あわよくば凛雪に会えるかもと期待した凛雪の次という順番だが、そんな俺の期待をあざ笑うように、凛雪はすでに姿を消していた。
避けられている、そこまでは言わないけれど凛雪が距離を作ろうとしているのを感じてしまう。
「…親御さんはなんて?」
暁ちゃんが一つ息を吐いて真剣な顔をする。
「父さんはともかく、母さんは大反対。…多分妹も。暁ちゃん、俺の家のこと知ってるでしょ?俺は妹に混じりけのない家族をあげたいし、早く一人で生きていくための場所と方法を手にいれなきゃいけないんだ。」
ロクでもない父親とは違う、大切な人を手に入れるための方法を。
「リツ。」
俺の言葉に暁ちゃんは厳しい顔をする。
「お前の家の話はお前から聞いたから知ってる。でも、自分の未来を理由を妹さんや他の誰かにするな。お前の理由がそれなら僕も反対する。何より親御さんも説得できないようなら無理だ。」
暁ちゃんは誰にでもフェアだし、怒ることはないけれど、しっかり説教をする人だ。
「暁ちゃん…。」
俺は、逃げているのだろうか。
「お前が切羽詰まってるのはわかるが、落ち着け。ギラギラし過ぎだ。家族と腹を割って話したほうがいい。リツ、お前は何を焦ってる。」
「…家族だから話せないこともあるんですよ。」
「ああ、知ってるよ。大切な存在だから、傷つけたくないんだろう。」
暁ちゃんは穏やかにうなずく。
「灯も似たようなもんだったよ。大切な人を傷つけたくないから嘘で固めて生きてた。すごい覚悟で、自らを切り裂きながら。それでも、何人かは灯の知らないところで傷ついた。そういうものなんだよ。でも、こうして、みんな生きてる。リツ、お前がどうしても手に入れたいなら騙せ。そして騙されろ。親御さんも、俺も。周りにすべてを認めさせろ。…ああ、灯のことは秘密な。」
「…教師の言うセリフとは思えないんですけど。」
灯さんと暁ちゃんの関係はよくわからない。それでも、お互い兄弟のように思っていることは知ってる。そして、灯さんが穏やかに暖かく闇を抱えていることも。
「じゃあ、忘れていいよ。」
暁ちゃんはけろりという。
「俺はあいつをずっと見てきたからお前に口出ししちゃうだけだ。平川の時はほぼうなずくだけで済んだのに、お前は…。」
「凛雪はなんて?」
「言わないよ。当たり前だろう?」
暁ちゃんは言わないと言ったら言わないだろう。潔く引くしかない。
「俺がお前に言えることは一つだけだ。ちゃんとご家族と話しなさい。腹を割って、ちゃんと。僕になんて本当のことを言わなくていいから。リツにはリツの事情が。夏川家には夏川家の事情があるんだろうから。」
「…ありがとうございます。」
「いい報告を待ってるよ。」
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