第23話

「気づかれてたか…。」

「どったの?リツ?」

「いんや、なんでも?」

耳を澄ませていたのを凛雪に悟られていたのに気づいて、ついつい苦笑いを浮かべた俺に、葉月が怪訝な顔をする。

「何でもないよ、葉月。ちょっと釘を刺されただけ。」

「え、ケガ?」

「なんでそうなる…。」

天然少年である葉月に言っても無駄だがあまりに予想外の返事が返ってくる。斜め上過ぎるだろう。こいつ。

「リツは進路どうするの?地元?」

「ちょっとな…。」

こいつに深い意図はない。せいぜい少し耳に入った音に影響された程度だろう。

「葉月は?」

「国立に行けたらいいな、って感じ。」

「忘れてた…葉月お前頭の出来はいいんだよな…。はい、隣で死んでる弥和。お前は?」

「リツ、俺をバカにして…。俺は専門ですよ。」

弥和も弥和で頭は悪いが、やりたいことは決まっているわけだ。

「ふーん…。」

「で?リツは東京出るの?」

「まあ、通うとなったらな…。うち不便だし。でも妹が通ってるの私立だし、行くとなったら自活が…。」

「春陽ちゃんレベルの高い私立の女子校だからね。」

「春陽ちゃん言うな。」

「うるせえシスコン。」

「でもリツ大体自活できるんじゃないの?器用だし。バイトもわりのいいとこ抑えてるじゃん。」

葉月が穏やかに割り込んでくる。

「バイトはあれ先輩の伝手だから。確かに灯さんが世話焼いてくれるからいいけどね。あと、俺は確かにそこそこ器用だが、家事はからっきしなんだけど!?」

「そうだっけ?」

「葉月、できるのは春陽ちゃん。」

「あ、そっか。」

「余計なお世話だ、弥和。」

凛雪のほうを横目で見ると何やら長野と耳打ちして笑っている。幸せそうな微笑みだが、どこか苦し気で、胸が痛む。

「平川はどうするか聞いた?」

「釘を刺されてね。」

葉月はまだ疑問符が浮かんでいるが、弥和は察したらしい。

「あいつもそこそこの毒花だな。綺麗な薔薇には棘があるってか。」

「棘のおかげで変な奴が寄らないなら願ったりかなったり。」

弥和は呆れたように

「なかなかだよな、お前も。」

「ちょっと怖いよ。リツ。」

「うるさい。」

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