第19話
「あ、夏川先輩だ。」
友人の呼んだ名に覚えのあった私は反応する。なぜ学校も学年も違う義兄の名が私の友人から出るのだろう。
「夏川先輩?」
何事もなかったように小夜に尋ねる。性格があまりよろしくない私の数少ない友人だ。
「凛花知らないの?前に交流試合で来た事あって、すっごくかっこよかったんだから!それに妹はうちの学校の初等部にいるよ。夏川春陽、ってわからない?前にピアノ弾いてたよ。」
言われてみればなるほど、わが親愛なる義兄は飢えた女子の好みドストライクだ。顔こそ似ていないが、放っているフェロモン的な何かは父とよく似ている。
「ああ、あの子ね…。」
言われてみれば、前に式でピアノを弾いていた少女の名は夏川だった。なるほど。こんなところでつながっていたとは。
「でも、残念。夏川先輩彼女さんにベタぼれなんだよね…私たちには入る隙間もないって感じ。イチャイチャしてるわけじゃないんだけど何なんだろう、絶対に入れない空気感?」
小夜はこういうところで嫌われ、はじかれるのだが本人にそれを気にした様子はない。私は母のせいで男に対してバカみたいに淡白なので別に気にならない。それで成り立っている関係だ。その証拠に、私がほとんど口を挟まなくて小夜は気にしない。
「綺麗な黒髪の和風美人でさあ。あんたの髪を黒くして伸ばした感じ?凛花も髪黒くして伸ばせば?パーマ取ってさ。コンタクトにして。モテるかもよ?あんたも美人なんだから。」
私の手がぴたりととまる。
「え、まさかの好反応?」
「違うわよ。」
嘘でしょ。
「でも、彼女さん見てみたいなあ…。」
小夜は自分を可愛く見せること、情報を手に入れることに関してはトップクラスだ。
「写真あるよ、画質悪いけど。見る?」
「見る。」
ほらやっぱり。
小夜はスマホをちょいちょいと操作して膨大な写真データからお目当てのものを探す。
「あった、これこれ。あまりに夏川先輩が可愛かったからつい撮っちゃったんだよね~。」
本来は忌避すべき野次馬根性だが、今回ばかりはありがたい。
そこに写る姿は確かに画質は悪い。だが、そこに写る姿はまぎれもなく、私の義兄と義姉の姿だった。
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