第18話
離れてしまった凛雪の手に、何も言えなかった。
「凛雪…。」
「ありがと、送ってくれて。ここまでで大丈夫。」
「送るよ。」
「ううん…。母さんがいるから。」
そう言われてしまっては何も返せない。凛雪の母だって俺の顔を見たくはないだろう。
「そっか…。気をつけろよ。」
「うん、ありがと、凛月。」
綺麗に笑った凛雪の笑顔に、同じ笑顔で返す。
『別れたくない』
自分の中と凛雪両方から声が聞こえた気がした。
冬の空にひらりと靡く凛雪の黒髪は寂しげで、それでありながら冷たくて。まるで凛雪の周りだけ雪の幻影が見える気がした。
いやだ。
俺は凛雪を失いたくない。
春陽や両親と同じように、なにとも比べられないくらい大切なんだ。
凛雪は怒るだろう。
それでも。俺も怒った。
凛雪は自分を大切なものに含むな、と言った。そんなことできるわけがない。いつか顔を見るのが嫌になる。
なんてことを言うのだろう。
凛雪の顔が誰に似ていようと、凛雪は凛雪だ。他の誰でもない。愛しいのは彼女たった一人だ。
家族とも天秤にかけられないほどに。
俺は何を敵に回しても凛雪と一緒に居たい。
俺は今日別れ際の凛雪にあさましいほどドロドロとした肉欲を抱いた。こんな感情春陽に抱いてたまるか。むしろ春陽に抱いた男をぶん殴りたいくらいだ。
半分血がつながっていようとなんだろうと関係ない。
アイツに俺以外の男が触れるかも、なんて虫唾が走る。
たとえ俺のものにならないにしても…誰のものにもしたくない。
綺麗でまっすぐなあいつに抱くには似合わない汚れた黒い感情。
俺は大切なものをすべて手に入れて見せる。
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