第17話
「凛月。」
「ん?」
半歩程前を歩く凛月を私は呼び止める。
「言うべきではないのはわかってる、言っても仕方がないのも。それでも言う。私は凛月のことが好きだよ。」
最後の愛の告白、になってしまうのだろうか。別れる運命にあっても、この想いに嘘だけはつきたくなかった。たとえそれが凛月を縛ってしまうのだとしても。
凛月は何も言わない。
「凛月と血がつながってるとか、そんなこと関係ない。それだけは譲れない。…好きなだけなら…罪じゃないよね?」
声が微かに震える。
それまで罪だと言われてしまったら、この気持ちはどうしたらいいのかわからない。
「凛雪、約束する。俺の気持ちは揺らがない。」
「揺らいでいいんだよ。」
うまく笑えていただろうか。理性と恋情の間で心が揺れる。
「私と違って、凛月には大切なものがいーっぱいあるんだから。私はその中にいなくていい。」
私にとって大切なものは少ない。母と目の前の彼と、ほんの少しの友人。
凛月のようにあれもこれも抱えきれない大切なものはない。
私はその大切なものじゃなくていいから。それを腕いっぱいに抱えているあなたを見ていたい。
「凛雪!俺はな、」
凛月は少し怒ったような声を出す。その言葉を無理矢理に遮る。
「私は、その大切なものにがんじがらめになるどうしようもない凛月が大好きなんだよ。」
好き、があふれ出す。私は本当にこの人が好きで、愛しているんだと思い知る。
「…凛月。あなたは、私の手を取ってはダメ。大切なものとの板挟みで苦しむのが、私の大好きな情けない凛月。苦しんでも結局は私の手を離さざるを得ないんだから。何も考えずに私の手を今のうちに放してしまいなさい。」
半分本当で半分ウソ。
何があってもこの手を離さずにいてくれたら私は泣くほど嬉しい。
だって、私から振り払うなんてできやしない。でも、凛月ができないなら、私がしなきゃならない。
「私たちじゃなくたって、別れの時は必ず来る。…大丈夫、凛月はそう遠くない未来、私の顔を見たくなくなる日が来る。」
「そんな日は来ない!」
「来るよ。」
それだけは確かだ。
父と義妹とそっくりな私の顔は、あの日の絶望を凛月に忘れさせることを許さない。
優しい凛月は面と向かっては言わないだろう。それでも幸か不幸か、凛月の考えていることは手に取るように私にはわかってしまう。
私は握っていた凛月の手を離す。
私の冷えた手に残る凛月のぬくもりが名残惜しい。
「大好きよ。凛月。」
これは、呪いかもしれない。
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