第15話
「凛雪。」
ああ、呼ばれてしまった。
ただの運命であればどれだけよかったことか。
「凛雪には言ってなかったな。俺の家族の話。」
「凛月…。」
やめて、言わないで。
凛月には妹も、あなたの自慢の両親だっているじゃない。私の父さんとなんて、関係はないと言って。
あれは凛花ちゃんの勘違いだと、タチの悪いいやがらせだと。
「俺は、父さんとは血がつながってない。春陽とは半分…。その意味は分かるよな。」
「ええ…。」
それほど幼くはない。その意味は分かる。それでいてなお、夏川家の仲の良さも。
「俺にとっての父親は、今の父さんだけだ。俺も春陽も母親似だから、違和感は無かったろ?事実俺も結構最近まで俺と父さんが血がつながっていないことに気づかなかった。もちろん春陽とタネ違いなことも。」
凛月の父親はちゃんと、ずっと凛月を愛しているのだろう。
「だから、前に春陽ちゃんと似ている、って言ったとき嬉しそうだったの…?」
「うん。まだ、春陽は何も知らないんだ。傷つけたくない。この間の葬式も、春陽には、お世話になった先生が亡くなった、ってことにしてるんだ。もっとも吐いてしまったから春陽もなにか気づいてしまったかもしれないけれど。」
私と同じように、父が生きていたことに驚いて、死んだことはそれほど驚きではなかっただろう。それ以上に凛月にとっての衝撃は、私と父と凛花ちゃんの顔があまりによく似ていることだったのだろう。
「そう…。」
何も言えなかった。かける言葉など、私は持ち合わせていない。
血縁上は、私のほんの少しだけ腹違いの兄になってしまうこの少年は、ひどく優しい。
私は凛月の言葉に向かい合うため、自分を語る。
「私の母はね、私を産んで育てるために、家を勘当されたの…。だから私に父親の記憶は一ミリたりとも無い。父親について尋ねると母は決まって”あなたは、彼によく似ている。””あなたの名付け親はその人。彼の親とは違ってセンスがあってよかったわ。”そういったわ。確かに私は母とは顔が似ていないし、名前も気に入っていたの。」
哀しい哀しい答えだ。
「俺の名前も、父親が唯一俺に残したものなんだそうだ。”ろくでもない男だけれど、あんたに素敵な名前だけは付けていった”そう、俺に父親が別にいることを告げたときに言っていた。俺も、この名前は好きだよ。」
私たちは、ここで発せる言葉を持たなかった。
傷をなめあう言葉も、相手を傷つけるナイフのような言葉も、愛の言葉も、涙も。
愛しい人を目の前にして、何も。
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