第14話
「はい、どうぞ。」
しばらくしてリクさんが飲み物とケーキを持ってきてくれる。分けて食べる、と言っていたのを聞いていたからだろうか、ケーキセットには、二人分のフォークがついてきた。
そもそもこちらのマナー違反な気もするが、笑ってくれる。
「ありがとうございます。」
リクさんはにこりと笑って
「こっちは、僕の正体を見抜いた口止め料のサービス。よろしければ。」
と、小さな綺麗にラッピングされた袋を俺と凛雪に手渡す。
「そんな、悪いです…。」
そんなつもりではなかったし、今じゃなかったら気づかなかっただろう。
「気にしないで、内々で趣味で作ったものだから。でも、味は保証するよ。もちろんケーキと飲み物もね。…ごゆっくり。また気軽に呼んでくださいね。」
そう言われて一口コーヒーを飲むと、難しいことはわからないが、なるほど確かにおいしい。
適度な苦みとすっきりした味がする、気がする。
凛雪は俺にケーキを食べていいか、と目で訴えてくる。
見た目からして可愛らしいものに目を引かれたのだろう。凛雪は見た目に似合わないとなかなか可愛らしいものを手にしないが、それが好きなことを俺は知ってる。
俺が小さく笑って皿を凛雪のほうに押しやる。
凛雪は一口食べて、どこか不思議そうでありながら、花がほころんだような笑顔を浮かべる。
凛雪のバイト先のケーキも美味しいが、ここも負けてはいないらしい。
その笑顔はやはり可愛い。間違いなく美味しかったんだろう。
このままでいられれば、幸せなデートなのに。
俺らの間に横たわった真実が、それを許してくれない。
俺達をただの恋人でいさせてくれない。知らないままでいたかった。知らないままでいてほしかった。
凛花という凛雪によく似た少女から電話がかかってこなければ、凛雪は知らないままなんじゃないか、と期待できたのに。
なんせ俺の見た目は父とは似ていない。
野分凛花と名乗った義妹に文句を言いたい気分にはなるが、罪があるのは義妹ではない。一応でも兄となってしまった以上義妹に怒りを覚えるのは、俺のプライドが許さなかった。
「凛雪。」
重たい、開きたくない口を仕方なく開く。
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