第12話

「凛雪、宿題見せて?」

「いやよ、梓。」

月曜日、母さんは無理せず休めと言ったけれど、凛雪の顔が見たくて、学校に向かった。

凛雪の方が早かったから長野と話している声が聞こえる。

「おはよう。凛月。…顔色が悪いわ。」

その理由をわかっているからだろう、突っ込んでは来ない。

「凛雪。おはよう。」

いつもと変わらない朝に、いつもと同じ表情。それなのに、お互いまじまじと顔を見つめたのは、同じ誰かの面影を探したからだろうか。

最もそっくりな凛雪とは違って、俺の顔にはあの人の面影はほとんどないのだけれど。

「凛月。」

たとえ、あの人にそっくりな顔でも、目の前に立つ少女が俺の最愛であることには変わりがない。それでも、春陽と同じように半分血がつながっていると考えると、この愛しさの理由を見失いそうになる。

“俺は知らぬ間に、自分と同じ血の流れる凛雪を春陽と同じように感じていただけなのではないか?”

そう囁きかけてくる悪魔を振り払うように、凛雪を見つめる。

「なーに、見つめあってるのお二人さん。」

「長野…。」

「別にいいでしょ、梓。」

「いいけどね。いつものことだし。あまりに夏川が反応しないから梓ちゃんびっくり。…やっぱ夏川調子悪い?ひっどい顔色してるわよ。」

「え、俺無視してた?」

思い返せば確かに凛雪の声は聞こえた気はしたが、凛雪は言葉を発さずそばに居ることも多いから気にもしなかった。

「うん、ゆきちゃんずっと呼んでたよ?凛月、リツ。って。」

「まじか、ごめん凛雪。」

「梓、ゆきちゃんはやめて。凛月…私と話すのは嫌?それとも本気で具合悪い?」

凛雪はふざけて甘えたような顔をしているけれど、その実かなり本気の光が瞳に宿っている。こいつは見極めようとしてるんだ。俺が、血のつながりがあったことが分かった自分を拒絶しないか。

お前がその気なら俺はお前を甘やかすぞ。凛雪。今はこの愛しさの正体が何であれ、お前のことを家族と同じくらい特別に大切に想っているんだから。

「凛雪。俺はお前ならいつでも大歓迎だ。」

「そう。」

素っ気ないリアクションだけど、俺にはちゃんと凛雪の安堵が読み取れてしまった。

「凛雪。」

「なに?」

「デートしよっか。」

「…いいよ。でも、凛月の無理がない程度ね。ひどい顔色だわ。」

「お熱いねえ。」

長野は茶化してくるが、このデートはもしかしたら最後になってしまうかもしれない、そんな悲壮な決意を俺は、…多分凛雪もしていたと思う。

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