第9話

「凛花。お前は嵐によく似てるよ。」

姉がひどい表情のまま去った姿を見る私に、時雨さんは苦笑いを向けてくる。

「…時雨さん。」

「全部わざとだもんな。お前は嵐の子だけど、爽香さんが亡くなってからは俺の娘として育ってることも言わないで。」

「…言う必要がありましたか?」

すべてが八つ当たりなことくらい承知してる。父は私も二人と同じように、育てることはしなかった。ただ、母に私を産ませただけ。

ある意味平等な人だ。誰にも愛を注がないくせに、愛を求める。

「父はひどい人です。」

「ああ、嵐は昔からそうだ。最低なんだよ。」

実の兄弟とは思えない、いや実の兄弟だからこその辛辣さをもって時雨さんは父を断罪する。

「中身はともかく、見た目は姉さんも同じでした。」

父に対する唯一のアイデンティティが姉の顔を見た瞬間に崩壊した。私たちにそろって冠される名の通りの女性だった。

私は、その姿にあさましいほど嫉妬した。

「あの人は勝手です。」

「うん、昔から。」

一番の被害者であり、諦めの境地にすでにたどり着いている人だ。そこには微笑みすら浮かべている。

「母だけです。愛されなかったのは。」

「…そんなことはないと思うけど。」

時雨さんは否定するが、断言には至らない。当たり前だ、父と時雨さんはあまりに似ていない。

父の子を産んだ、三人の女性。驚くほどに印象の違う人。

母は、父への恨み言を吐きながら若くして死んでいった。優しい寂しがりで、父とは似た者同士の一面もあったのかもしれない。

父は何を思っていたのか、死に場所に選んだ私と時雨さんの元で、すべての真実を語った。

3人の子がいること、その母親たちとの過去、今の消息。なんで知っていたのかは、今となっては聞くこともできない。

穏やかに笑顔で、すべてに向けた愛を。どの子も、どの母たちも平等に愛しいと。

母の死にざまとはまるで違った。

私の母と、母じゃない二人の母。

一人は自分の足で立ったかっこいい女性、もう一人は幸せに新たな家族を築いていた女性。

父に依存した母だけは、死んでしまった。

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