第8話

「リツ!」

ふらふらと葬儀場の外に出ると、聞き慣れた母の声がする。

「母さん…。」

虚ろなまま母を見ると、母は笑って

「帰ろう、リツ。家族4人であったかいもの食べよう。何食べたい?」

父に、母の隣で手を振る春陽。暖かい、俺の大好きな場所。俺の居場所はここにあるよ、と笑ってくれる家族。

春陽と父への罪悪感はあるけれど、胸を張って血の繋がりを気にしない、と言える俺の大切な人たち。

それなのに、俺に込み上げてきたのは猛烈な吐き気だった。

「うっ…。」

道端の側溝にしゃがみ込み、胃液までを吐き出す。喉が焼けるように痛い。

「リツ!!!」

母が慌てて俺に駆け寄る。

「陽菜さん、変わって。もうリツも大きいから君じゃ支えられないよ。」

「薙さん…。」

この歳になったら俺の方がでかい、華奢な母では支えきれないのは明白だった。半ば母を引きはがすようにして、父さんが俺の体を支える。

「陽菜さんは、春陽とコンビニ行って、用意しといてやって。春陽、お母さんと一緒にな。」

「うん!」

心配そうな春陽に兄ちゃんは大丈夫だから、心配するな。と言ってやろうとしたが言葉にならなかった。

「リツ、無理するな。落ち着いてゆっくり呼吸。口が気持ち悪いだろうけれど、ちょっと我慢だ。大丈夫、陽菜さんも春陽もいないから、無理に見栄を張るな。」

元野球選手の父さんは、こういう介護もお手の物だ。

「春陽と母さんに心配かけたくないんだろう?ゆっくりでいいから立って、二人のところに行こう。」

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