第7話
「凛花ちゃん?」
父を知る人、父に娘がいることを知る人は、私のことを彼の娘と疑うことをしない。それは事実で間違いではないのだが、この場で娘として正しく立っている腹違いの妹のためにも、その間違いは訂正せざるを得ない。
「…私の娘です。凛花さんは、あちらです。」
母の硬い声。私は顔を隠すように普段はかけない眼鏡を荷物から取り出す。
何度も何度もしつこいほどのこの問いかけは、私の妹にあたる少女と、父の棺を見れば理由ははっきりしていた。
母が似ている似ているというから、予想できるこれが嫌で終わる寸前に来たと言うのに。
どこぞのおばさん集団の口さがない言葉も聞こえていたが、気になどしたくなかった。
「夏川の坊ちゃんも来ていたよ。」
「そちらはあまり似てはいなかった。」
焼香だけ済ませて、さっさと去るつもりでいたが、凛月と同じ名字が妙に気にかかった。父の葬式に出たかったのは、私の種を知りたかっただけだ。
「夏川の坊ちゃん…?」
私が来た時、遠目に見えた俯いた少年は、どこか凛月に似ていた。けれど、ここに凛月がいるはずがない。だって、これは。
「初めまして、野分凛花です。」
私に、声をかけて来たよく似た、いやほぼ同じ顔の持ち主。
「平川凛雪さんですね。私に兄と姉がいることは知っていましたが、まさかここまで似ているとは思いませんでした…。おかげで一目でわかりました。兄は顔では区別がつかなくて。」
当然、目立つ。
母は時雨さんに硬い表情のまま挨拶していた。
「私は生前の父に、兄姉の名を聞いていました。声はかけられなかったですが、連絡先はわかっているので、またお会いできるでしょう。凛雪姉さん、凛月兄さん、そして私の兄妹水入らずで一度お話ししましょう。」
「凛月…?」
リツキという彼の名前は特別なわけではない。だが、胸騒ぎは収まらない。
「ええ、姉さんは雪で兄さんが月、私が花で雪月花だと。洒落ているというべきか、嵐、時雨に続き斬新すぎるネーミングセンス、というか。」
ありえない。なんで腹違いの兄妹に似た名前を付けるのか。
なんで、似た名前を運命だと甘いことを言わせてくれないの、父さん。
「夏川家には私から連絡させていただきますね、凛雪姉さん。」
ああ、すべてが確定してしまった。
彼女は憂い気に微笑んでいるが、その瞳の奥は怒りに黒く染まっていた。
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