第4話
「はい、夏川です。」
携帯だと言うのにいちいち苗字を名乗るのは俺の癖だ。
「凛月、私。凛雪。ごめんなさい。悪いんだけど明日の約束なしにしてもらっていい?」
明日はいつものように、凛雪と会うつもりだったのだが、用があるなら仕方がない。
「いいけど、どした?珍しいじゃん。」
でも、何故かはわからない。どこか凛雪の声が震えている気がした。
「…昔世話になった人が亡くなったの。あまり覚えてはいないけれど。母とお葬式に行くから。」
「そうか、悪いことを聞いたな。俺のことは気にしなくていいよ。」
「ありがとう。」
凛雪の声はわかりやすく沈んでいた。近くにいてやりたいと思うけれど、今必要とされているのも、そばに居られるのも残念ながら俺じゃない。流石にそこまで踏み込めない。
「じゃあね。気をつけて。」
俺が凛雪からの電話を切ると母も真剣な表情で電話をしている。
「わかったわ、時雨。ありがとう。…リツ。」
「なに?」
母は少し躊躇しながら、告げる。
「嵐が、死んだそうよ。」
「…え?」
俺と凛雪はこんなところまで似てしまうのだろうか。もっとも、俺にとっては"世話になった人"では無いが。
「私は葬式には行かない。私には薙さんがいるから。あんたも春陽も私にとっては薙さんの子。…でも、嵐の息子であるリツが行くことを止めはしない。お前が選びなさい、リツ。」
俺は春陽と半分しか血の繋がりはない。
野分嵐という名の通りの吹き荒れる空のような人の血を引いている。母はその人と結婚せず内縁のまま俺を生み、俺が物心ついたギリギリでその人は出て行った。俺にとっても父は、今の父であり、その人はあくまで血縁であるとしか思えなかった。
その後、父と母が結婚し、春陽が生まれたのだ。
母は多分きっと行かせたくはないのだろう。
「ごめんね、母さん。俺、行く。」
そこに行って、楽しい思いをするとは思わない。それでも、行かなきゃいけないと思った。
「いいのよ…。あんたが謝ることじゃない。」
ちゃんと、彼に別れを告げて、凛雪に全てを話したい。
「野分時雨、という人がいて、その人が嵐の弟。困ったらその人を頼ればいい。時雨は全部知ってるから。」
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