第5話

「はい、わかりました…。連絡ありがとう、時雨。」

「随分凄い名前の人ね。」

「ええ、あなたの父親の弟。兄弟そろって凄いネーミングセンスよね。」

そうふざけつつも母の顔は笑っていない。その人は、私たちにとって。いや、母にとって大きな存在だって。最も私にその人が残したのは、私の名と、見た目だけだけれど。

「凛雪。」

「なに?」

「彼が死にました。葬式は明日です。どうしますか?」

嘘をつかない。それが母と私の約束だった。嘘はつかないが聞かれないことも答えない、という悪い面もあるけれど。事実私は初めて父に弟がいたことを知った。

「行けば、必ず貴女は傷つきます。…今の電話で、私は彼に貴女以外の娘がいることを知りました。…そして、その娘は、彼によく似ているそうです。」

わずかな緊張が走る。

私の容姿は母似ではない。それは、一つの真実を指し示す。

「それでも、行きますか?」

「…はい。」

約束通りの母の言葉。

私にとってたった1人の父親。

その人の最期くらい見送るのが娘としての役割だと思う。

それに、母を苦しめた恨み言の一つや二つぶつけられないまま、あちらに送り出すのは癪に障る。

「他の人に言われるのは嫌なので、先に言います。彼にはあなたの腹違いの兄と妹が一人ずついるそうです。そこに行けばその二人に会うかもしれません。周りの口の悪い大人たちもいろいろと噂をするでしょう。先ほども言った通り、貴女の容姿は、彼とよく似ている。ごまかしはきかないでしょう。」

「私に兄弟が…。」

あったこともない父に似た容姿に、似た妹。腹違いの兄。

母は私を妊娠し、私を産むために実家を離れ、父と別れた。母が父を愛していたのかはわからないけれど、疑うべくもなく、私の父は確定しているのだそうだ。

それほどまでにあったことのない父と、私の容姿は似ているのだろうか。

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