第11話 確信

 レストランを後にして、彼女の丁寧な運転にまた気持ちよく揺られ、レンタルビデオ屋に戻った。

 なんの展開もない代わりに、「明日も早いだろうにつき合わせてごめんね」という言葉を頂戴した。

 ワンチャンなんてあるわけないのだ。

 僕は、彼女がビッチじゃないということに、ほっとした。

 逆に、彼女がビッチかもしれないと少しでも思い、少しでもそれを期待した自分を責めた。

 僕が好きになった女の子は、そんな子じゃないぞ。

 

 家に戻って僕は彼女にLINEした。


「今日はごちそうさま。また次回ね。」

 すると返信はすぐにあった。


「こちらこそありがとう。わたしはね、ガストが好きなの\(^o^)/」

「ガストが?」

「今日みたいな所はひとりじゃいけないから付き合ってもらったの、ありがとねー」


 僕は本当に完敗の気分だった。

 彼女に気を使わせている。

 僕が気を使わないようにと、彼女が気を使っている。

 その上僕はビッチだの何だのってことまで考えていたのだ。

 僕は猛省した。


「本当はフランス料理でも奢りたいけれど、僕は安月給だから無理だ。ごめんね。」

「わたしはガストがいいんだってば!ドリンク飲み放題だし」

「じゃあガスト行こう。何回でも行こう。いつまでも奢るよ。」

「わほーい」


 彼女はただの性根のよい女の子なだけだった。

 僕は変に勘繰ったりした自分が恥ずかしくなった。

 彼女に他意はないのだ。

 彼女はただ純粋に思ったとおりに行動しているだけなのだろう。


「でもね、日曜日でいいの?土曜日の方がよくない?」

 そうLINEが飛んできたので

「確かに土曜日の方がゆっくりできる。」

 とつい返してしまった。


「わたしは曜日なんてあってないようなものだし、じゃあ土曜日にガスト行こう!」

「土曜日は仕事は?」

「あったりなかったり」

「そうなんだ。」

「お誘いまってまーす^^」


 なるほど、次は僕が誘うべきだよな、そりゃそうだ。

 なんなら毎週土曜日会いたい。

 それはやりすぎだろうか。

 そもそも彼女は僕に会いたいのだろうか?

 ただのご飯友達を欲しているのだろうか?

 そこらへんが明確ではない。

 明確にしたい。

 どうやって?

 もう僕は気持ちを伝えてはいる。

 でもどうしたいかは言っていなかった。

 そうか。

 どうやらまた僕は勇気を出さなければいけないらしい。

 今度は「付き合いたい」と言わなければ。


 でもあの日紙を渡して以来、僕は変わった気がする。

 自分で言うのもなんだけど、一皮剥けた気がする。

 でなければ、好きだよ、なんて言葉は僕の口からは出ないはずだ。

 


 本当に大好きなんだなあ、僕は。



 今日のぽろっと出てしまったあの言葉には、改めてそう実感させられた。

 「付き合いたい」という言葉も、きっと自然に出てくるのだろう。

 僕が心からそう望んでいれば。

 でも僕は現状に満足しているのかもしれない。

 これ以上望んだら罰が当たると思っている節があるのかもしれない。

 それともただ単に臆病なだけかもしれない。

 だけど・・・。

 彼女のあのくしゃっとした笑顔を見た後、頭を撫でてみたい。

 それは確かに望んでいる。

 頭を撫でたら、彼女はどんな顔をするのだろう。

 見てみたい。

 僕が臆病者だろうがなんだろうが、彼女のことが大好きなことは揺ぎ無い事実だった。


 僕は風呂に入り、耳くらいまである髪の毛を乾かしたあと、ベッドに入り、今後どうしていきたいか考えた。

 彼女を、自分の彼女に出来たら最高だ。

 あの可愛い女の子が自分のものになるなんて、そんなの最高に決まってる。

 頭もぽんぽんしたって不自然じゃない。

 それになりより、毎週土曜日会うことも不自然じゃないし、極当たり前のことになる。

 本当は僕はそれを望んでいるのでは・・・?


 その時LINEがまた鳴った。


「今日は楽しかったよー!おやすみなさい」

 彼女からだった。

「僕もだよ。おやすみ。」


 こんな風に、LINEのやり取りをすることにも、付き合ったら何の疑問も持たなくなる。

 今の僕はどこか疑問を抱いていた。

 彼女はどういうつもりなのだろう、という疑問を。



 やっぱりそこは明確にしたい・・・!



 付き合いたいか付き合いたくないかはさておき、彼女がどういうつもりなのか、明確にはしたい。

 いや、さておきなんて嘘だ。

 付き合いたいに決まってる。付き合いたくないわけがないじゃないか。

 


 彼女を、僕の彼女にしたい。



 そう僕は確信した。

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