第7話 誘い

 その日から僕たちは3日に一度くらいの割合でLINEのやり取りをするようになった。

 僕は幸せだった。

 次の日曜日、僕は再び店へと行った。

 どんな顔をして会えばいいんだろう。

 緊張して店に入ると、僕は彼女を無意識に探した。


「いらっしゃいませ」


 彼女はすぐに見付かり、そういって僕を見た。


「あっ」


 彼女は更に笑顔になり「こんにちは」と言ってくれた。

「こんにちは」

 僕もやや笑いながらそう言った。

 店でのやり取りはそれ以上はなかった。

 僕はいつもどおり映画のDVDを借りて、レジで彼女に接客してもらい、ふんわり漂う忘れな草の香りを嗅ぎ、袋を受け取った。

 でも、最後彼女は「ありがとうございます」のあとに、「じゃあまた」と小さく言ってくれた。

 いつもどおり、彼女は可愛らしかった。

 僕は心の中で、こんな可愛い女の子と、僕はLINEのやり取りをしているんだぞ、と思った。

 本当ならそれを大声でふれて回りたいほどだった。

 僕はもう彼女の知人なのだ。単なる客ではない。

 それは事実で、そのことが僕を浮き足立たせていた。

 

 その晩も彼女とLINEのやり取りをした。


「先週の日曜日、連絡先くれたとき、わたし遅かったでしょう?」

「そうだったね。どうしたの?」

「わたし本屋さんの方のPOP書いてるのね。それをやっていたの」

「へえ。POP書いてるんだ?」

「うん」


 彼女との会話はこの頃だいぶ打ち解けていたと思う。

 僕も最初の頃のように緊張しなくなっていた。


「それで遅くなっちゃったのに、待っていてくれてたのかなあって思って」

「うん、実はそうだよ。」

「やっぱり!それにお礼を言わなきゃって思ってたの」

「そんなお礼なんて。」



 いい子過ぎる・・・。



 僕は湧き上がる好きという気持ちを、もう多分抑えなくてもいいのだと思い、存分に溢れさせていた。


「ありがとね」

「いやいや、こっちが勝手にしたことだし。」



 ああ、もう・・・。

 すごい好きだ。



 彼女はどう思ってるか判らない。

 ただのLINE友達として認定されているだけなのだろう。

 それでも構わなかった。

 僕の中で彼女は特別だったけれど、彼女の中での僕に対してそれは求めなかった。

 求めすぎたらいけないと、そう思っていた。


 僕はこうしてLINEをするようになってからも、彼女をどこかへ行こうとは誘っては居なかった。

 本当は二人で食事をしたりしたい。

 どこか出かけたい。

 つまり、デートがしたい。

 でもなるべく段階を踏んで仲良くなっていきたいと思っていた。

 だから僕は我慢していたのだ。

 本当はその手に触れたい。

 本当はその髪に触れたい。

 本当はLINEでなく直に二人で話をしたい。

 顔を見て話がしたい。

 声で、やり取りをしたい。

 本当は、デートに誘いたい。


「だから、お礼がしたいので、今度ご飯でも奢らせてください(^人^)」



 ん?



「何が食べたいですか?」


 続けて彼女がLINEを送ってくる。

 僕は突然の展開についていけず、暫く呆然とした。

 何の反応もLINEにしないで固まっていると、彼女が「いやですか・・・?」と送ってきた。

 僕は慌てた。


「いやじゃないいやじゃない。でもそんなの悪いよ。」

「いいえ。わたしの我侭を聞くと思って奢られてください!(`д´)」


 我侭なんていくらでも聞いてやりたい。

 なんでも許してしまうだろう。

 なんでも許してしまいたい。


「じゃあわたしが行きたいところでいいですか?」

「いいけど・・・。」

「じゃあ決めときますね」

「けどでも、」

「奢られてください!(`д´)」


 僕はどうするべきかなるべく早く考えた。

 そしていいことを思いついた。


「わかった。じゃあ今度は僕に奢らせてね。」


 その次の約束まで取り付けようという魂胆だった。

 うまくいけば、彼女と2回食事が出来る。


「了解です(・ω・)ゞ」



 やった・・・・・!

 


 僕は会心の気持ちだった。

 これで、唐突ではあったけれど、デートが出来ることになった。

 しかも彼女から誘ってくれた。

 いや、彼女はデートとは思っていないかもしれない。

 でも二人で食事をする、これは紛れもない事実だった。



 やったぞ・・・!!!!



 これは、これこそ前進したといってもいいのではないだろうか。

 僕は再び大きく前進した。

 ずっとずっと好きだった女の子と食事をすることになったのだ。

 これを前進といわずして何をいう。

 奢られるのなんて新鮮だ。

 彼女の人柄のよさが滲み出ている。

 待っていてくれたお礼、だなんて。


 ・・・待てよ?

 待っていたらお礼をしたいほど嬉しかったのか?

 そんなわけないか。

 ただ待たせて悪かったと思っているだけだな。


 僕は兎に角食事が出来て、直接話が出来るということに色めきたっていた。

 僕は自分の気持ちの処理で一杯一杯で、彼女の気持ちまでは考えられなかった。

 それで今のところ、問題なかったのだ。

 僕はその日も左右にごろごろと転がり、嬉しさをかみ締め、幸せな気持ちでゆったりと眠りに就いた。

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