第2話 ドストライク

 レンタルビデオ屋に初めて行き、彼女を目にしてからは仕事中も彼女の顔を思い出しては仕事に戻り、また思い出すといった日が続いた。



 本当に可愛い子だった・・・。



 あの日のあと僕がDVDを返しに行ったのは夜で、夜は男性が接客をしていた。

 なのに僕には彼女の顔が鮮明に思い出された。

 


 今度の日曜日、また借りに行こう。



 僕はそう心に決めつつ、小さな会社で雑務をこなした。


 そんな風にして平日の仕事を乗り切り、日曜日に必ずレンタルビデオ屋に行く日々が始まった。

 僕はいつだってドキドキして、彼女がレジを打ったりしているときにチラチラと顔を盗み見ていた。

 彼女が見ているかもしれない。下手なものは借りれなかった。

 新作は最長3泊までだったが、旧作は1週間借りれたので、僕はいつも旧作を借りていた。

 日曜日に借りて、日曜日に返す。そしてまた借りる。その繰り返しだった。

 でも僕は新作の棚をいつもうろうろしていた。

 新作はレジのそばに陳列されており、そこからDVDを見る振りをして、彼女のことも盗み見、聞き耳を立てていたのだった。

 彼女は客が居ないときこそ同僚と仲良く喋っていたが、客が来ると即座に仕事に移り、笑顔で接客するのだった。

 その姿は見ていてとても気持ちのよいものだった。


 彼女は返却されたDVDが貯まると、それを棚に戻す作業をしていた。

 そんな時、僕は店内をうろつく振りをして、さり気なく彼女に近づいたりしていた。

 そして一瞬あのいい香りを嗅ぎ、すぐにそこを後にしていた。

 変に思われたらまずい。

 僕はこの恋を、実らせたいとは思わなかったが、同時に終わらせたくもなかったので、あくまで客としてとしか彼女とは接せず、出すぎた行為には及ばなかった。


 

 季節は完全に冬になり、年が明けた。

 成人式の日、僕は休みの日の日課がそうであるように、レンタルビデオ屋へと向かった。

 その日はレジカウンターに彼女の姿はなかった。



 なんだ、今日ははずれか・・・。



 そう思いつつ本屋へと移動し、並べられた本を眺めては手に取ったりして、そろそろ店をあとにしようかと思ったときだった。


「わあ、綺麗ねー!」


 そういう本屋の女性店員の声がしたので、その声の方を見てみると、成人式だったのであろう、着物姿の女の子二人が女性店員と話していた。

 ひとりはお決まりの赤い着物。

 だがもうひとりは珍しいこげ茶の着物だった。

 するとそのこげ茶の着物は彼女だったのだ。

 彼女は普段下ろしてある髪の毛を綺麗に結っており、こげ茶の着物は彼女の白い肌を際立たせ、地味な着物のはずなのに、彼女はとても映えて見えた。

 美しかった。

 僕は思わず見とれた。

 店の客も数人着物姿の女の子二人のことを眺めていた。

 でも僕には確信出来た。

 眺めていた客は彼女のことを見ている。

 それほどに、彼女は美しかった。



 ひとつ上だったのか。



 僕はまだ19の年だったので、成人式を迎えた彼女はひとつ上となる。

 彼女は童顔なのだな、と僕は思った。

 そんな年上の彼女のことが、僕は堪らなく可愛く思えた。

 年齢を知らなかったとはいえ、年上の女性に興味を惹かれたのは初めてのことだった。

 僕は新しい自分を発見したように思え、なんだか嬉しくなった。

 そこで彼女に自分が見とれていることに気づき、慌てて本に目をやった。


「折角だから見せにきただけですので、もう帰りますね」

「あら残念。その姿で接客して欲しかったわ」

「やめてくださいよー」


 そんな会話を、耳だけそばだてて聞いていた。

 確かに。

 あんな姿で接客してもらいたいものだ。

 いつもの彼女はパンツスタイルだったので、着物姿という特別な姿は、より特別に僕には見えた。

 僕はいつものように、チラチラ彼女を盗み見ては、その姿を目に焼き付けた。

 そうしているうちに彼女とその友達は店を後にしたので、試しに僕も店の外へと彼女について行ってみた。

 僕が自分のバイクのそばから、目だけ彼女を追いかけていると、彼女はとある車の助手席に乗り込み、そして駐車場を去っていった。

 運転席には赤い着物の友達が乗っていたようだが、あの姿で運転するとは驚きだった。

 恐らく僕と同じように、ここから近いところに二人は住んでいて、少しの距離しか運転しないのだろう。

 でも車が向かった先は僕の家とは反対方向で、中学が同じとか、かすっていることは考えられなかった。

 僕は少しがっかりした。

 中学が同じなら話すきっかけも出来たかもしれないのに。

 僕は残念に思いながら、バイクにまたがり、僕もまたその場を後にしたのだった。

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