第12話黒猫は喋る

 マサキたちは街へ戻る最中もあれやこれやと真白に質問をし、真白は魔力切れの疲れで頭が重いため適当に返す。


 街も後少しというところでみんな異変に気付く。

 門の前には大人数の衛兵が見える。真白だけはその光景を予想していた様で、自分のしてしまったことに大きな溜息をつく。


 向こうもこちらに気がついたのか、取り囲む様に広がりながら近寄ってくる。

 衛兵達は真白たちの前に辿り着くと声を張り上げる。


「我々はルナームの防衛隊である!先ほどの火柱は貴殿らの仕業か!」


 その言葉にマサキらは一斉に真白を見る。その視線を防衛隊も追うように真白を見た。

 真白は返答次第ではまた長い時間拘束されるなと考え、返答に迷っていると。


「そうだよ。まぁ、あたしらというよりこいつ何だけど」


 そう言ってニーナが真白を指差す。

 まさかの言葉にマサキたちは唖然とし、真白は肩を落とす。


「そこの女がそう言っているが間違いないか」


「まあ、間違いではないですね」


「では何をしていた」


 言われてしまったことは仕方ないので、自分が犯人だと答え、今までの事を掻い摘んで衛兵に説明する。


 役所の職員のナルミアがいたため、大体の事は分かってもらえたようなのだが、火柱を起こした魔法について納得いかないようで怪しいものを見る目で見てくる。


「先程ニーナさんが申しましたように、あの火柱はマシロさんが放った魔法によるものです」


「しかしなあ、あんな魔法が一人で発動できると思えん。我々の知らない兵器を持っているのではないか?」


 真白に代わってナルミアが一生懸命説明するも、見たことがないものを信じることができない者達では、話にならなかった。


「どちらかと言えばこちらのエルフ族や人族の方が怪しく見えるが」


 その言葉は聞き捨てならなかったのか、フィー、ダン、ニーナが猛抗議する。


「マサキ様がそんなことするなんてあるわけないですわ。あんな周りを焼け野原にする魔法、草花を愛でる優しいマサキ様は使いません!」


「そうじゃぞ。あのような不意打ちで群れ全てを灰に帰すなぞ、マサキ殿がするわけがないわ」


「それに地面にあんなどでかい穴を空けるなんてマサキ様にはやろうと思ってもできないよ」


 三者三様、真白が悪いと言うが、それでも衛兵は納得しないため、真白は仕方ないと解決策を提示する。


「このままじゃ話が進まないから、できれば防衛隊総隊長のギルザールさんを呼んできてくれない?」


「そうですよ!ギルザール様なら何とかしてくれるかもしれません」


 ナルミアが妙案だと褒めてくれるが、衛兵たちは笑って返す。


「君たちみたいなのが総隊長と話せるわけないじゃないか」


 真白は本当にどうにもならないなと、どこの世界でも話の通じない面倒な人は居るものだなと思い返す。

 段々とこの衛兵と話すのが疲れてきた真白は。


「自分、もう疲れたんで一旦拘束という事で牢屋にでも入れてくださいよ。この人族の人たちは無関係なのでそのまま街に入れてあげてください。それでも気になるなら監視でも付けとけばいいでしょう」


「ちょっとマシロさん!どういうことですか!」


「魔力切れで疲れてるのにこんな所で突っ立ってるのは怠いからね。すぐ何の問題もないと分かるはずだから、一日くらい牢屋生活もいいかなって」


 真白が犠牲になるという提案にマサキは暗い表情になるが、真白の軽い返しにまたも呆れてしまう。


「わかりましたよ。マシロさんを心配するのはら無駄な気がして来ました。無事出てくることを待ってますよ」


 そしてマサキ達五人は監視の衛兵を引き連れて街の中へ入っていき、どさくさに紛れて真黒も後をついて行く。

 真白は腕を後ろ手に拘束され、頭に麻袋を被せられる。


「この袋はなんで被せるんですか?」


 真白は自分の提案したことが西門の事件のときだけでなく、ちゃんと採用されている事に感心して聞いてみる。


「これは数日前に西門で暴れた人族をギルザール様が捕らえた時に、その者が密偵でないかと危惧されたギルザール様が考案した目隠しだ」


 何故かギルザールが考えた事になっていたが、そこには触れず、凄いですね〜と棒読みで褒める。


「とても聡明な方なのですね。その素晴らしいギルザール様に最期に伝言でも伝えて貰えないでしょうか」


「仕方ない。ギルザール様と知り合いだと嘘を吐くのは許せないが、最期の願いくらいは叶えてやろう」


「では、白の魔人と黒の猫からギルザール様へ。教会の子供達が怒ってしまいますとお伝えください」


「一字一句間違えずに伝えよう」


 そして、真白は腕を引かれて牢へと連れられる。


 † † † † † † † † † † † †


 真白が牢屋連れて行かれている頃。


「納得出来ません。何故真白さんが捕まらなければならないのですか!」


 ナルミアは未だこの結果に納得していないようで、怒っていた。


「抑えてください。真白さんなら何とかしてしまいますよ」


「そうかもしれませんが、やはり納得出来ません」


 マサキがナルミアを宥めるが怒りが収まる気配が全然ない。

 そんなナルミアをからかう者が一人。


「ナルミアはマシロの事がそんなに心配なのか〜。まあマシロはちょっと変わってるけど、魔人族だから顔は良いしな」


「何を言っているんですかニーナさん!心配は当然していますけど、気があるとか、そういうんじゃないですよ」


 さっきまで吊り上がっていた目尻はおとなしくなり、耳と顔は茹で上がった蛸のように赤くなる。


「ニーナもあまりからかっちゃ駄目だよ。ナルミアさん、僕たちはマシロさんがすぐ帰ってくるのを信じて待っていましょう。マシロさんの事ですから、「牢屋は静かでよく眠れた~」とか言って戻ってきますよ」


 ナルミアもマサキの言った真白を信じるという言葉にこれ以上反論はしなくなった。

 一行はそのまま役所へと向かい、依頼の完了報告をする。

 ナルミアが上司に今までの出来事を説明し、後日被害状況調査をすることとなり今日は解散となった。


「じゃあ今日は宿屋でゆっくりしようか。監視もされちゃってるし下手に動かない方がいいよね」


「そうですね、こう見られていますと、落ち着かないですものね」


 マサキの提案にパーティーメンバーは頷き、役所を出ようとしたところで、今まで隠れるようについてきていた真黒がマサキの肩に飛び乗る。


「うわっ!」


 急に飛び乗ってきた真黒に驚き身を引いてしまい、真黒は振り落とされてしまう。


「これはこれは、マグロ殿ではないか」


 振り落とされた真黒をダンが抱きかかえる。真黒はされるがまま抱っこされ、ニャーとか細い声で鳴く。


「マシロさんと離れて寂しいのかな?それにしても一人でついてきたのか。猫でもマシロさんの仲間は凄いんだな」


 みんなで固まって真黒を愛でていると、監視の視線が強くなったように感じた。


「とりあえずこのままマグロちゃんも連れて宿屋に行こう」


 皆頷き、真黒はダンの髭に半分埋まりながら宿屋まで連れられる。


 宿屋は役所の近くにあり、すぐに着いた。

 宿屋の名前は踊る子山羊亭。高い宿ではないからか、煌びやかな装飾はされていないが、きちんと清掃されているため、汚いという印象は受けない。


 その宿の二階の一室にマサキ達は入る。

 監視の衛兵は流石に部屋まで入ってくる事はなく、部屋の入り口と屋外から部屋の監視を続けていた。

 直接的な視線から外れた一同は一様に息を大きく吐く。


「監視されているというのは何とも居心地の悪いもんだの」


「そうだな、見られてるってのは背中がむず痒くなるね」


 ダンやフィー、さらにニーナは人より感覚が鋭敏な為、監視というのは精神的にかなり辛いようだった。


「でも、取り敢えずこの部屋で大人しくしていれば大丈夫だと思うよ。マシロさんがすぐに出てくれれば監視もなくなるだろうし」


 マサキの言葉にダンとニーナは納得し、ベッドに座り寛ぎ始めたが、フィーだけは暗い表情をしていた。


「どうしたのフィー?」


「いえ・・・。もしですけれども、実はマシロさんが出てくる手立てが無かった場合はどうすればいいのでしょうか。マシロさんはああ言ってはいましたが、囮になるからその隙に街から逃げろと合図していたのでは?」


 フィーの考えにマサキは押し黙る。


「そう言われるとそうかもしれんな。マシロ殿は聡明な方だ、わしらでは思いつかない様々な知謀を巡らせておるようだから、フィーの言葉も否定できん」


「でも、もし無事に出れる方法があるのに僕達が動いて状況を悪くする事があれば、マシロさんの足を引っ張る事になるよ」


 例え上手く真白を救えても犯罪者の烙印は押され、失敗しようものなら、疑わしきは罰せず。最悪死刑なんてこともありえる。


「でも、おかしいよな」


「何がです?」


 ニーナの言葉の意味が分からず、フィーは堪らず聞き返す。


「だってたかが大魔法を放っただけで防衛隊が出てくるなんておかしくないか?防衛隊だってキラーワプスが来ていたことは知ってたんだろ?だったらその大魔法は、キラーワプス討伐に向かった人が放ちましたで簡単に終わることじゃないか」


 言われてみればそうなのである。実際真白が放った魔法の規模は想定外の規模のものではあったが、キラーワスプの大群が迫っていることを知っている防衛隊がわざわざ集まって待ち受けるのはおかしく、まるで何かに怯えているようである。


「だとすると、やはりマシロ殿は危険なのでは」


 もし真白が牢から出る方法が有ったとしても、この異常を知らなければ失敗してしまうかもしれない。

 そう考えると皆こうしてはいられないと立ち上がる。


「みなさんお待ちください。」


 マサキが部屋を出ようとドアノブに手を掛けたとき、女性とも男性とも思える声が聞こえた。その声は優しく、焦っていたみんなの心を落ち着かせる。


「どうか私の話を聞いてください」


 マサキ達はその美しい声の方を向く。そこには真白が連れていた一匹の猫、真黒がいた。


「君が喋ったの?」


 マサキが確認を取るように聞く。


「そうです、私です」


「喋った・・・」


「すみません。私はあまり前に出ないようにしようと思っていたのですが、真白さんが捕まってしまいましたので。それよりも、真白さんの事ですが、多分真白さんはこの状況も軽く乗り越えてしまうと思います。ですが、もしもという事がありますので、保険の為にご協力してもらえますでしょうか」


 真黒が喋った事には多少驚いたが、流石異世界の住人は慣れるのが早く、真黒のお願いに強く頷き応えた。


「では、まず教会に行きましょう。あそこの子供達に会いに行きましょう、そのあとのことは道中お伝えします」


 真黒はマサキの肩の上に乗り、部屋を出て行く。

 部屋を出ると監視していた衛兵が寄ってくる。


「お前達どこへ行く」


「教会に行きます。問題はないですよね?」


 行き先を聞きはしたが、行動に制限を掛けるつもりはないとそのまま通される。

 急ぎ教会に向かう途中、真黒は今後の予定を説明する。


「まず教会に着いたら修道士か修道女の方に真白さんが捕まった事を伝えて下さい。そして、真白さんを助ける為には子供達の協力が必要だと説明してください」


「何故子供達の協力が必要なんだい?」


 マサキは子供でないと助けることが出来ないという理由が分からず、聞き返す。

 真黒はマサキに理由を説明し、話が大体終わると丁度教会に着いた。

 教会の中に入るといつもの可愛らしい足音ではなく、重い足音と低い声が聞こえる。


「ようこそルナームの教会へ。今日は何の御用件でしょうか」


 現れたのはバサルタスだった。

 マサキは真黒に言われた説明と同じ事をバサルタスにも説明する。

 真白が捕まったことに一瞬目を見開いて驚くも、すぐにいつものように平坦な表情に戻る。


「わかりました、では子供たちの所へ案内しましょう。ですが、協力は致しますが、くれぐれも子供たちに害のないようにお願いしますね」


 バサルタスの強い物言いと鋭い目にマサキは押されて一歩下がりながら頷いた。

 マサキたちはいつも子供たちが遊んでいる中庭に案内された。


「アイカ君、こっちに来てください」


 バサルタスに呼ばれたアイカは何だろうと首を傾げながらやってくる。


「こんにちわアイカちゃん。僕の名前はマサキって言います。ちょっとお話がしたいんだけどいいかな?」


 マサキの言葉に変わらず不思議そうな顔をするが、マサキの肩の上にいる真黒を見ると表情が変わる。


「あ、マグロちゃんだ」


 その言葉に真黒もマサキの肩から降りてアイカにすり寄る。


「マシロさんはいないの?」


 真黒がいるという事は近くに真白がいると考えたのだろう、キョロキョロと辺りを見るが姿が見えないことに残念そうな表情をしてマサキに向き直る。


「そのマシロさんの事で君にお願いしたい事があるんだ」


「どういう事ですか?」


「マシロさんが衛兵に捕まってしまったんだ。君には真白さんを助けるために協力して欲しいんだ」


 真白が捕まったという言葉に残念そうな顔を悲しい顔に変えて涙を浮かべるも、協力して欲しいというマサキの言葉に力強く頷いた。


 つづく

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