第10話勇者パーティー(仮)
次の日の朝もいつものように朝の鍛錬をしてから、教会のみんなと食事をする。
朝食の後は昨日出来なかった依頼を受けに、役所へと向かう。
朝の依頼掲示板の前は人で溢れており、遠目で確認していると、ナルミアがやってくる。
「昨日はすみませんでした」
ナルミアは昨日の真白の格好の件をわざわざ謝りに来てくれた。
「別にもういいですよ。それよりも何か羽振りの良い依頼ないですかね?」
真白はもう気にしていないと答えると、ナルミアは安堵し、すぐに頭を仕事モードに切り替える。
「ちょうど良い依頼が一つありますよ。五人まで限定の討伐依頼でして、大量発生したキラーワスプの討伐です」
キラーワスプとは超大型の蜂型の魔獣で、平均60センチ。女王になると1メートルを超えるものがいる。
その顎は大木をも噛み砕き、毒針は大型の魔獣すらも数分で死に至らしめる。
そんな危険な魔獣が街の南の平原の方から東の森へ向かっていると情報が入り東の森へと入る前に処理したいという事で依頼が届いたのだ。
本来であれば防衛隊が動くのだが、今回は東の森に入ってしまった場合のみ動くという事に決まったらしい。
「自分に出来るかな〜」
真白は悩みながら視線を頭の上の猫に向けるが、にゃーと言うだけで何とも言わなかった。
「真白さんなら出来ると思いますよ。この間のヘルガルムの討伐でも、殆どのヘルガルムを一撃で倒していましたし、他の依頼もそつなくこなしますから多分余裕ですよ。それに、今回の依頼は職員が一名同行しますので、何があっても命だけは助かりますよ」
最後の一言だけ気になったものの、真白はその依頼を受ける事にした。
その後、残りの参加者四人が来るまでナルミアと依頼の事や適当な世間話をして過ごす。
そして、それ程待たずして真白と同じ依頼の用紙を四人組が持って来た。
「これを受けたいんだが」
四人は男二人女二人のパーティーで、種族もバラバラだった。
リーダーっぽい軽鎧の優男が人族。
重鎧を着て自分よりも大きな盾と斧を背負ったドワーフ族。
黒の三角帽にローブを羽織った魔女っ娘エルフ族。
弓と短剣を持った兎獣人族
ロールプレイングゲームのテンプレとして選ばれるようなバランスの取れたパーティーである。真黒も同じようなことを思ってか、興奮して鼻息が荒くなっている。
四人組は依頼の説明を受けている最中で、リーダーが真面目に説明を聞いているのに対し、ドワーフは全く聞いていなかった。女共に至ってはリーダーをうっとりと見つめ、依頼内容を説明しているナルミアを睨んでいた。
こんなめんどくさそうな奴等と一緒に仕事するのかと思うと、逃げたくなってきた真白だったが、説明がちょうど終わり、逃げるタイミングを逃した。
説明が終わったナルミアはお互いの紹介をするために真白を手招きする。やる気の下がってきた真白は重い腰を上げ、四人の元へ近寄る。
するとリーダーが真白の手をがっしりと掴み握手をする。
「僕はマサキって言います。今日はよろしくお願いしますね」
物凄く何かを期待されるような目で見てくるマサキの視線が嫌で、目線を外してよろしくと答える真白に、マサキはいまだ手を握り熱く語る。
「僕達がキラーワスプを倒さないと、この街が大変な事になります!この街には小さな子供達や、か弱い女性、身体の弱ったご老人と護るべき人達が沢山います。そんな人達を護れるのは僕達しかいないんです!ですから、一緒にこの街を守りましょう!」
マサキはまさに物語の主人公という感じの好青年なのだが、自分に酔っている感じがして真白は受け入れがたかった。
顔は美形が多い魔人族を超える端正な顔立ちで、仲間の二人が惚れ込むのも無理はない。
マサキはやっと手を放し、次にドワーフが挨拶をする。
「わしはダンジムリアだ。ダンと呼んでくれ。よろしく頼む」
ダンは背が低く、顔の半分が髭で覆われているおっさんなのだが、武器屋の店主と見分けが全くつかなかった。
「それとわしは女だからな、勘違いするでないぞ」
そのダンの言葉でマサキパーティー以外の周りにいた人たちが固まる。
「よ、よろしく頼むよ」
出来る限りの精一杯の笑顔で真白は挨拶をする。その挨拶を皮切りに思い出すように皆動き始めた。
次にエルフ魔女が前に出て華麗にお辞儀をする。
「私の名前はフィーリア。フィーとお呼びください」
身長はダンと同じくらいで線が細く、緑が掛かった金髪に尖がり耳。まだ幼さが残る顔立ちはとても可愛らしい。
真白はフィーにもよろしくと挨拶をしようとしたところで、フィーが小さな杖を取り出して意味の分からない詠唱をする。
『パンプリン・ポンプリン・フルメルク。煌きよ』
すると、フィーの周りがまるで魔法少女が変身するときの背景のように煌き、只今変身中ですと言わんばかりにカラフルに光る。
そして光が収まると衣装は変わっていないがポーズを決めていた。
「闇の渦巻くこの世界。深い森からやってきた。愛と正義の魔法美少女フィー!みんなを幸せにするため只今到着!」
物凄いドヤ顔を向けてきたフィーにどう返せばいいのか迷っていると。ダンがやってきて耳打ちをする。
「あいつは、あれでもう893歳だ。見てくれに騙されてはいかん」
その年齢に驚くも、エルフへ長命だと聞くしそんなもんかと納得し、年上で頭の中身が子供なら茶番に付き合う事もないなと、真白は軽くよろしくと言って流す。
その反応が気に食わなかったのか、フィーはダンが耳打ちした所為だと癇癪を起こし、二人が言い争うのをマサキが止める。
エルフとドワーフの二人が言い争うのは慣れているのか、兎獣人の子が二人を無視して自己紹介をする。
「あたしはニーナ、よろしくね。多分仲間内でまともなのは私とマサキくらいのものだから、安心してくれていいよ」
ニーナは黒髪、黒耳、黒尻尾の兎で、年齢が見た目通りなら真白やマサキと同じくらいか少し上。薄手のシャツにノースリーブのジャケットを着て、それを下から押し上げる双丘は美しい曲線を描く。
下のショートパンツからはスラッと伸びた素足が艶かしい。
そんなニーナを上から下まで見ると真白の頭の上の真黒が何故か頭皮に爪を立てる。
「っん。よろしく」
やっとマサキパーティーの紹介が終わり真白の番となる。フィーとダンもマサキに宥められ静かになっていた。
「自分の名前は真白です。こっちの猫は相棒?の真黒です。よろしく」
簡単に紹介を済ませると、マサキが目を輝かせる。
「貴方がマシロさんだったんですね!」
マサキの反応に驚き、聞き返す。
「どういう事だ?自分の事知ってるのか?」
真白にはこれといって心当たりがないため不思議に思っていると、さらに目を輝かせて熱く語る。
「ヘルガルムの討伐では並み居るヘルガルムを一撃で血祭りに上げ、漆黒の衣を血で赤に染め。見た事ない魔法でヘルガルムの死体を晒し上げる。その異様に防衛隊の隊長も頭を下げ許しを請い、お供として引き連れた。そんな残虐非道な魔人かと思いきや、迷子の猫を捜したり、老人の買い物を手伝うなど優しい一面を持つ。最後には教会に住み、そこの美しい修道女と寝食を共にし十二人の子供を授かったと」
あまりの内容に笑って返す事が出来ず、あまり表すことのない怒りが込み上げてくる。
「・・・おい。どこのどいつだそんな出鱈目を口にした奴は」
真白は今までにない寒気を感じる静かな物言いで、マサキに聞く。
マサキはその声を聞いただけで歯をカチカチと鳴らし震えて答える。
「ぼ、ぼ、僕は、さ、酒場で聞いただけで・・・」
すると今まで感じていた寒気が一気に引いていきマサキは座り込んでしまった。
真白はそんなマサキに手を差し出す。
「ごめんごめん。悪気はなかったんだ。自分は怒るのが苦手でね、あまり加減が出来ないんだよ。でも、嘘か本当かもわからない情報を信じるのは良くないよ。特に最後のなんて他の人を傷つける事になるから」
そう言った真白の手をマサキは恐る恐るという感じで取り、小さくありがとうと言った。
そしてそんな二人の周りにいたダンにフィーやニーナは、武器に手を掛け今にも襲いかかろうという体勢で、それを慌ててマサキが止めた。
真白はもう一人近くにいた、腰が抜けてしまったナルミアの所へ向かう。
ナルミアは真白が近付くとひっと怯えた声を出した。
それに一瞬戸惑うも、真白は怯えて小さくなったナルミアに先程とは正反対の今まで一度も見たことのない優しい笑顔でナルミアを抱きしめ、ごめんねと何度も言いながら頭を撫でた。
ナルミアも落ち着いてくると、自分が何をしているか気付いたようで、顔を真っ赤にして離れ、ありがとうございますと顔を一切上げずに何度も言った。
そんな一幕を外野で見ていたナルミアの上司から依頼の出発時間が過ぎたぞと言われてみんな慌てて南の正門へと走って向かった。
† † † † † † † † † † † †
正門に着いたところで、ナルミアが再度注意事項を説明する。
「え〜、先ほどは色々ありましたが、今日はよろしくお願いします。今回討伐対象のキラーワスプはかなり危険な魔獣です。噛まれれば腕など簡単に千切れますし、針に刺されれば数分で死んでしまいます。みなさん相当な腕前ではありますが、気をつけてくださいね。それでは行きましょうか」
「ちょっと待ってくれ」
真白は出発しようとしたみんなを止める。
「今回の依頼は職員の同伴があるって聞いたけど、先に行くのか?」
最初ナルミアにこの依頼の説明されたとき、職員の同伴があると聞いていたので、正門で合流するのかなと思いきや、誰もいなかったので疑問に思ったのだ。
「私がその同伴の職員ですよ」
するとナルミアが自分がその同伴者だと言った。それを聞いて真白は改めてナルミアを見るが、とても戦闘が出来るようには見えなかった。
「私はあまり戦闘は苦手ですが、回復魔法が得意ですので、怪我をした場合私の所へ来てください、すぐに治してみせますよ」
そうしてパーティーにヒーラーが加わって南の平原へと向かう。
† † † † † † † † † † † †
平原は、初めて街に来たときと変わらず周りに何もなかった。何もないために良く見える。
わらわらと群れる蜂の群れ。キラーワスプは見た目は殆ど蜂で、腹部の大きさが頭と胸を合わせたよりも三倍くらいの大きさなのが目を見張る。
数はざっと百以上。さすが蜂と言うべきか、十匹一分隊として、距離はあるものの隊列を組むように飛んでいる。分隊の中の一匹は他の個体よりも大きく、それが隊長なのだろうとわかる。
真白はこのメンバーで連携とか大丈夫かなとか不安になってきたが、四人は気合充分という感じで武器を取る。
「じゃあ僕達が先行して攻めますんで、マシロさんはサポートお願い出来ますか?もし、見てて危ないと感じましたらマシロさんも前に出てきても構いませんので」
マサキの提案に真白も特に異論はなく、任せると言って返事をする。マサキ達はそれを聞いて、キラーワスプの群れの中に走っていった。
マサキは走りながら指示を出す。
「ダンはいつも通りみんなを守るように動いて、ニーナは裏を取ってくる奴の迎撃。僕は正面から確実に仕留めていく。最後にフィーは広範囲の魔法で一掃して!」
マサキの指示に皆頷き、フィーが魔力を高めて詠唱を開始する。
「闇の渦巻くこの世界。深い森からやってきた、愛と正義の魔法美少女フィー!お前達を懲らしめるために只今到着!『パンプリン・ポンプリン・フルメルク。その炎は敵を討つ正義の火炎、悪を滅ぼせ。ジャスティスファイヤー!」
詠唱と魔法名が幼稚だが、問題なく魔法は発動する。
フィーの魔法は、分類的には大火球を生み出す魔法で、キラーワスプ一個分隊を包み込む。直撃したキラーワスプはそれだけで絶命し、二匹が地上に落ちる。
他のキラーワスプは大きなダメージを受けたもののまだ動いており、隊長と思しき個体はほぼ無傷であった。
フィーは討ち漏らしが多いことに舌打ちし、次の魔法の準備をする。
その間にマサキたちは討ち漏らしたキラーワスプを仕留めにかかる。
まず弱っているものをマサキが斬りつけトドメを刺す。その間にマサキを狙ってきたキラーワスプをダンが斧で返り討ちにする。そして、ニーナは嗤いながら矢を放ち体力のある個体を牽制し、飛び上がり短刀で羽を切りつけ地面に落とす。
「あははははは!雑魚が群がりやがって、気持ち悪いんだよ!雑魚は雑魚らしく大人しく巣に帰ってな!」
自己紹介のときの優しそうな顔は何処へ行ったのか大きく歪み、まともな性格とは何処へやら。
あのメンバーでまともな性格な人はいないと思っていたが、ニーナはどうやら戦闘狂のようだった。
そうこうしてるうちにあっという間に残りは隊長のみとなる。
「一気に畳み掛けるぞ!」
「「「了解!」」」
マサキの号令と共に集中攻撃をする。
フィーが放った七本の炎の矢が隊長に襲いかかる。キラーワスプも二本、三本と華麗に避けていくが、避けた先に上手い具合に放たれた矢を全て避け切ることが出来ず、大きな腹に突き刺さる。
腹に穴を開けられて怯んだところにニーナが飛び上がり、すれ違いざまに羽を切り落とす。
落ちて動きが鈍ったところにダンがキラーワスプの胸部に斧を振り下ろし、マサキが反対側から首を狙って剣を振り下ろす。
キラーワスプが抵抗したため、マサキの剣は外れて顔を掠めただけだったが、ダンが斧を更に食い込ませ、痛みで動けなくなったところを再度気合いを入れて剣を振り下ろす。
「ハァッ!」
キラーワスプの頭が身体から離れ、ボトッと音を立てて落ちる。
一先ず周りにいたキラーワスプを全て倒したので一息入れて、マサキは真白の方を向いて手を振り無事を知らせる。
「どうなるかと思ってたけど、なかなかやるもんだな」
真白が援護する事もなく、無事倒してみせた事に感心していると、次のキラーワスプがやってくる。今度は二分隊、二十匹。
「彼らは世界中を旅して回っているそうですよ。人族の国以外は一度は行ったことがあるそうです」
真白はナルミアの説明に、本当に勇者っぽい事やってるんだなと思い。キラーワスプとの戦い、第二回戦が始まる。
つづく
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