第8話黒い人影

 真黒の情熱的なアニメ魔法談義から二日が経った。

 この二日間は討伐依頼、猫探し、買い物代行などのお手伝いのような依頼をこなして金を稼ぎ。子供達に缶蹴りや縄跳びを教えて遊んだ。


 夜には文字の読み取りや書き取りを子供達から借りた童話で勉強し、この二日で年齢に見合う程度の語学は身につけた。


 そして、真白は起きている間は常に魔法を使い続けた。魔力の扱いに慣れるため、魔力の保有量を増やすためと真黒に指示されたからだ。子供達と遊んでいる時に魔力が切れて倒れたときは、みんな心配して物凄く怒られた。


 そんなこんなで次の日の朝。


 真白と子供達が中庭で軽く遊んでいるところにパタパタと音を立ててヘレナが走ってきた。

 ヘレナは息を切らしており、さらに慌てているようだった。


「マシロさん、衛兵の方がみえています」


 ヘレナは心配そうな表情をしていたため、子供達も悟って表情を険しくする。


「やっと来たか」


 そう言って真白は客が待っているという応接室に向かおうとすると、子供達が足にしがみ付き動けなくなる。


「どうした?動けないじゃないか」


 真白が離してと頼むも必死にしがみ付き、離そうとしなかった。


「兄ちゃん行っちゃダメだ!捕まっちゃうよ!」


 子供達はヘレナが心配そうな表情をしたせいか、衛兵が真白を捕まえにきたのだと勘違いしてしまったのだろう。


「おいおい、兄ちゃんが悪い事するわけないだろ。だから離してくれな」


 一応納得してくれたのか、渋々という感じで手を離したが、皆泣きそうな顔をしていた。

 真白は子供達の表情を見て困ってしまい、一から西門前でで起きたことを話そうかとも思ったが、説明に時間が掛かり衛兵の人を待たせるのも悪いと思ったため、子供達も連れて行くことにした。


「仕方ないな。一緒に行こうか」


 そう言うと、子供達は真白を守るように囲み、両手をソールとアイカが繋ぐ。そんな子供達の優しさに真白は困りながらも笑顔を向け、真黒もいつものように真白の頭の上で笑っていた。



 応接室で待っていたのは、衛兵の防衛隊総隊長で城主の弟のギルザールだった。

 子供達はギルザールの事を知らないのか、尚も真白を囲んで守る。ヘレナはギルザールの事を知っているのか、子供達の態度が悪いため不敬だと思われないか内心ヒヤヒヤしていた。


 ギルザールが何事かと真白に尋ねようとしたところでソールが大声で抗議する。


「マシロの兄ちゃんは悪い事なんてしていない!捕まるなんておーぼーだ!」


 その言葉で何となく察したのだろう。ギルザールは表情を柔らかくし、真白を見る。真白は視線に気付き、肩を竦めて答える。

 すると今度はギルザールが席を立ち、胸に手を当て敬礼をする。


「私は防衛隊隊長のギルザールであります!真白殿には、先日起きた西門での事件を解決して頂いた感謝と御礼をしに参った次第であります!」


 バカでかい体から発せられるバカでかい声のせいで皆驚き、驚き過ぎて涙目になっている者もいた。


「あっはっは。ギルザールさんあまり子供達を驚かせないであげてくれ。泣いてしまうよ」


 声の大きさに驚いたみんなの顔が可笑しくて笑ってしまった真白がそう言うと、ギルザールは子供を泣かせてしまったと慌てふためき、その姿に再度笑うと、みんな釣られるように笑い出した。


「この衛兵さんは自分を捕まえにきたんじゃなくて、誉めに来てくれたんだよ」


 そう真白がみんなに言うと安心した表情をした。しかし、今度は反対に真白に詰め寄る。


「それならそうと先に言ってくれよな!」


「「「そうだ、そうだ!」」」


 今度は真白が困ったようにたじろく。


「お前達は言っても聞かないだろうから言わなかったんだよ。さあ、わかったら戻って遊んできな」


 ブーブー言いながら部屋を出て行こうとした子供達をギルザールが引き止めた。


「マシロ殿を守った小さな近衛兵達よ。そなた達は立派に任務をこなした。そのような者達には褒美をやらなければなるまいな。少ないかもしれないが、これで甘いものでも買ってくると良い」


 ギルザールは子供達に大銀貨を5枚渡した。子供達はそれに跳ね回りながら喜んだ。

 その中で一番しっかりしたアイカが御礼を言う。


「ギルザール隊長ありがとうございます。私達小さな近衛兵はこれからもマシロさんを守っていきます」


 そう言ってアイカはギルザールを真似て敬礼をする。それに合わせてみんなも敬礼をする。ギルザールはそんな可愛らしい近衛兵に笑いながら敬礼を返した。


 その後改めてヘレナがギルザールへ御礼を言い、子供と一緒にお菓子を買いに出て行った。


「可愛らしい子供達だな。マシロ殿によく懐いておる」


 ギルザールは子供達を見送りながら言う。


「何で自分なんかにとは思うんだけどな。それで、今日は何の用かな?」


 真白はギルザールに今日来た用件を聞く。


「それは先程も言ったように先日の御礼をしに来たと」


「たかがそれだけの為に総隊長さんが来るとは思えないんだけどな。まあ、ギルザールさんならあり得なくもない気は少しするが」


 真白の言葉に苦笑いしながら、結局話さなければならない事をわざわざ隠すこともないなと思いギルザールは目的を話す。


「この間もそうだが、マシロ殿には隠し事は出来そうにないな。元々は本当に御礼と報奨金を渡すのが目的だったのだが、横槍が入ってしまってな」


 城主の弟であり、防衛隊の総隊長のギルザールに口出しするとは誰だろうと想像しながら。


「横槍が入るくらいなら報奨金なんていらないけどな」


 そう真白が答えるとギルザールは悲しそうに小さくなる。


「そう言ってくれるな。私から出来る精一杯の御礼なのだ。まあ、それでその問題というのがだな、マシロ殿が報奨金を与えるに足る者であるか確認しろと言うのだ。それに私は反論して、私が認めた者であるから、それに足る者であると主張したのだが、それも認められなくてな。そこでマシロ殿にはある事件を解決してもらって、反対した者達を黙らせて欲しくてな」


 結果的に言えば、ギルザールのせいで要らぬ仕事が増えてしまったという事だ。


「はあ。それは、その事件を解決した分の報酬も貰えるのだろうか?」


「当然だとも。解決したのであれば、誰一人として文句は言わせないと誓おう」


 ギルザールはそう言うが、真白はあまり乗り気でないと唸り考える。そうやって唸っていると、ギルザールは耐えきれないのかすぐに口を開いてしまう。


「何か私に出来ることがあるなら言ってくれ、可能な限り協力しよう」


 真白はその言葉を待っていましたと言わんばかりの笑顔で返事をする。


「わかった。その話受けよう。それでその事件ってのは何なんだ?」


「マシロ殿も知っていると思うが、数日前に起きた城主暗殺未遂事件を解決して欲しいのだ」


 城主暗殺未遂。真白がルナームに来る前に起きた事件。犯人は他種族で魔人族に変装して進入、城主の首を奪う事が出来たのに何もせず逃走。それからの目撃情報は一つもなかった。

 真白も時間を見て調べてはいたものの街で聞けるのは噂程度のものしかわからなかった。

 真白は元々城主に恩を売ろうと考えていたので、城主の弟から直接お願いされるのは大きな借りになるだろうと心の中で考えて真白は一人ほくそ笑んでいた。


「捜査状況なのだが、実のところ何も分かっておらんのだ。はっきり言って我等には犯人を特定する事など出来ないであろう」


「捜査は何をしていたんだ?」


 この世界の住人は思慮の浅い者が多いようなので、まともな捜査も出来ていないのではないかと、真白は予想していたのだが。


「まずは聞き取りだな。襲撃のあった夜に怪しい者を見なかったか、城の者や街の者達に聞いて回ったのだ。しかし怪しい者は一人もいなかったと皆言っておった」


 怪しい者がいなかったと証言が出るのは当然で、相手は魔人族に変化できるのだ。そんな事できる奴が怪しい動きをする訳がないのだ。


「また、犯人が関係してそうな事件が起きていないか調べてはいるのだが、これもこれといった成果は出ておらん」


 想像力の足らないこの世界の住人では、一部の能力の高い者の考えが理解出来ないからかお手上げなのだろう。

 他に何かないかと聞いてみても、特に有益な情報を得られなかった。


「となると、怪しい者がいなかったということは、それだけ相手の演技力が高く頭が回るのだろうね。城に進入してからの動きがないのも、警備が厳重になって再び進入するのが難しいのか。はたまた、既に街にいないのか」


 真白は聞いた話を頭の中でまとめていくも、情報が少な過ぎてまとまらず、これといって結論付ける事が出来なかったのだが、二つ疑問が生まれた。


「なあ、何で犯人が魔人族に変化してるとわかったんだ?それに何故犯人は城主暗殺を諦めたんだ?城主の目の前までは行ったんだろ?」


「犯人は、城主の目の前で変化を解いて人族の姿に戻ったのだ。逃げる時もその姿だったから、他の者も見ておる。犯人が諦めた理由はわからないが、城主を前にして臆したのかもな」


 最後はギルザールは笑って言ったが、そんな理由で退く訳がないと真白は考えていた。

 ターゲットを殺す絶好の機会を自分から投げ捨てたのだ、何か他に目的があったはずである。

 そこから数分間話し合い、真白はギルザールに幾つか指示を出しておく。


「これを調べておけばよいのか?」


「とりあえず今一番知りたいのはそれだけ。わかったらすぐに教えてくれ」


「承った。他には何かあるか?協力できる事があれば力を貸そう」


 事件に関することについては全て頼んだので、今度は個人的な願いをする。


「なら、剣の鍛錬に付き合ってくれないか」


 真白は剣道や居合道、フェンシングなど片っ端から習っていたのだが、それらはスポーツであり、生死を賭けて戦うこの世界のものとでは違うと感じていた。

 そこで、この世界に於ける戦闘のプロに師事を受けようと考えたのだ。


「なんとも、私で良ければいくらでも付き合おう。毎日昼頃には兵舎で訓練をしているのだ、時間が合えばいつでも来てくれ」


 話はそれで終わり、この日はこれで解散となった。


 † † † † † † † † † † † †


 ギルザールと別れてから、真白はあるところへ向かい街を歩いていた。

 人気のない道では真黒が先程の会話について聞いてくる。


「犯人の目的は何でしょうね?」


「今はわからないし、わからないからギルザールさんに頼んでおいただろ」


 真白もいろいろと考えてはいるが、正解一つに対して思い付く答えが何十個と多くなる。しかし、唯一わかることもある。


「城主の暗殺が目的ではないのは確実だな。それに城主を殺しては駄目だってことも条件の一つだな」


「どういうことですか?」


 察しの悪さに、もしかして神様の頭が弱いから、この世界の住人もそれに影響されて弱いのではとか思いながら答える。


「城主を暗殺する以外の目的であっても、城主の所に現れるのは必要な事だったんだろ。だけど、姿を現しただけで殺しはしなかったのは、殺してはいけない理由があったって事だ。城主を狙っていると思わせることで、目的が達成しやすくなる何かがあるんだろう」


 真白達は大通りに出て話はそこで終わる。


 真白は大通りに並ぶ服屋を見ながら歩く。


「遂に服を買うのですか」


 真黒が小さな声に頷いて答える。

 なんだかんだで忙しかったせいで服を買えなかったのだ、念願の普通の服である。真白は買う店は見当を付けていたようで、他の店を横目に真っ直ぐ目的の店へ向かう。


 着いたのは一軒の古着屋だった。


 つづく

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