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 お正月。あたしはゴミのように過ごした。また食べては吐く生活が始まってしまっていた。でもお餅を食べた後は苦しくて吐けなかった。おかげであたしは少しだけ太った。

 仕事が始まり、なんでもない日常が再び始まった。あたしは受付で愛想笑いを振りまいていた。その所為か、あたしに連絡先を渡す男の人は止むことはなかった。


 あたしはある日思い切って、そのうちのひとりに連絡してみた。

 どうでもよかったのだ。だからどうでもいい人を、大して選ばずに決めた。どんな顔してたかも覚えてないくらいだった。

 あたしとその男性は、会うことになり、待ち合わせてすぐホテルに行った。やっすい、昔からあるようなラブホテルだった。

 あたしはそこで、その人に体中舐められて、気持ちが悪かった。相変わらずセックスは楽しくなかった。これの何が楽しくてみんなしてるんだろう。そんな風に考えながらその男の人に抱かれていた。


 その人とはそれっきりだった。

 だがあたしは同じようなことを何回も繰り返した。連絡先を渡してくる男の人には片っ端から連絡した。そしてホテルに行き、抱かれた。何回か関係が続く人も居たけれど、大体一回きりだった。人形のようにただ抱かれるあたしに、みんな詰まらなさを感じたのだろう。


 24になろうとしてたころ、同じように連絡先をくれた男性に、顔も覚えてないのにまた連絡した。待ち合わせにきた男性は、イケメンとは程遠い感じの人で、あたしは、はずれだー、と思ったのだった。

 身の程を知らない人だな、とも思った。これまで連絡先をくれた男性は、それなりにいい男だった。自分が声をかけても害はない、そう思っているような男の人ばかりだった。

 だけどその人は違った。どこか野暮ったい感じの、ずんぐりむっくりとした男の人だった。

 あたしはまるで興味が湧かなかった。

 あたしは今回も、一回限りだな、と思いつつその人と寝るつもりだった。

 だがその人は、ホテルへは行かなかった。観たい映画を一緒に観てくれないか、とのことだったので、一緒に観ただけだった。そのあとも誘ってきたりはせず、あたしを最寄り駅まで送ってくれて、そして別れた。

 あたしは意外に思った。あたしに手を出さないなんて、珍しい男・・・。少しだけ興味が湧いた。


 あたしはそのあとも色んな男の人に抱かれた。病気と妊娠だけ気をつけて、あとはどうでもいいやと思っていた。たくさんの男の人に抱かれた方が、箔がつくとさえ思っていた。そんな浅はかな考えで、あたしの男性遍歴は大いに汚くなっていった。でも付き合おうという男の人は居なかった。


 そんな中、またあの野暮ったい人が会社に来て、メモをあたしに渡した。「また会いたいです」そうメモには書いてあった。新鮮だった。書いてあった電話番号に電話をし、あたしたちはまた会うことになった。今度は休みの日だった。あたしと遊園地に行きたいというからだ。あたしはたまにはそういうのもいいかなと思い、一緒に遊園地に行くことになった。


 遊園地でその人と過ごす時間はとても楽しかった。久しぶりに、本当に久しぶりに心から楽しんだような気がした。その人の名は陽一といった。

 陽一はその夜もあたしを誘ってはこなかった。そして最寄り駅まで送ってくれて、あたしたちはまた別れた。

 あたしはやきもきした。


 こんなにちやほやされるあたしを黙って駅まで送って、部屋に来ようともしないなんて、あの男どうかしてる。


 そう思った。

 あたしは陽一の連絡先を携帯のメモリに入れた。今度はこっちから連絡してやる。

 そしてあたしは遊園地に行った次の週末、陽一に連絡をした。陽一はびっくりしているようだった。あたしが「お酒飲みたいの」というと、付き合うよ、と返事が返ってきた。あたしたちは仕事帰り待ち合わせて、普通の居酒屋に行った。そこでした取り止めのない会話は、なぜかとても楽しかった。

 陽一は、優しくて、意外に気が利く男の人だった。あたしの飲み物がなくなると「みゆきちゃん、次何飲む?」と店員さんを呼んでくれたりした。「おつまみ足りてる?」そう言ってはメニューを渡してくれたりした。陽一は一滴も飲んでいなかった。

「飲まないの?」

 あたしがそう訊くと

「実は飲めないんだ」

 と恥ずかしそうに言った。

 この人、自分がお酒飲めないのに、お酒飲みたいなんていうあたしに付き合ってくれたの?なんで?疑問が湧いた。

「お酒飲めないのになんで付き合うなんて言ったの?断ればよかったじゃない」

 あたしは陽一には何でも言えた。すると陽一は「みゆきちゃんと過ごせるならなんでもいいよ」と言った。

「じゃあさ」

 お酒の回ったあたしは言った。

「このあとホテル行こ」

 陽一は黙った。

 他の男の人なら二つ返事でOKな筈なのに。

「でも・・・」

「でもなによ?」

「酔っ払ってる女性にそういうことするのはよくないよ・・・」

 陽一はもじもじとそう言った。

「あたしがいいって言ってるんだからいいじゃない」

 あたしはそう言うと、店員さんを呼んで「お会計」と伝えた。「ありがとうーございまーす」と店員さんは元気に言った。あたしがお財布を出してお会計をしようとすると、陽一は「あっ、みゆきちゃん、いいよ」と言ったが、あたしは「じゃあこのあとホテル代出して」と言って陽一を黙らせ、お会計を済ませた。

 お店を出てからあたしは陽一の腕に絡みついた。陽一はぎこちなく歩いた。ホテル街まではすぐだった。適当なホテルに入って部屋へ入った。

「シャワー浴びるね」

 あたしはそういって先にシャワーを浴びた。

 浴び終えると、いつか杉崎さんに笑われたのを思い出しつつ、バスローブで部屋に戻った。陽一はそれをみてパッと目を逸らし俯いた。

「あなたも入って?」

「いやでもやっぱり」

「いいから入って」

 あたしは強い口調でそう言った。仕方なさそうに陽一はシャワーを浴びて、そしてバスローブで出てきた。先に横になっていたあたしの傍に座ると「本当にいいの?」と訊いてきた。

「ここまできてシャワーまで浴びて今更やめてよ」

 あたしは起き上がって陽一の首に手を回し、キスをした。暫くあたしが一方的にキスをしていたが、やがて陽一はスイッチが入ったかのようにそれに応え、陽一がリードし始めた。

 陽一は丁寧に丁寧にあたしを抱いた。慈しむように大事にあたしを抱いた。あたしは初めて自然に声が出た。

 あ、セックスって気持ちいいかも、そう思った。それはあたしが回数を重ねた所為なのか、相手が陽一だった所為なのかは判らない。兎に角あたしはセックスって悪くない、そう思ったのだった。

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