2
数日後、おからクッキーが届いた。食べてみると、もそもそしていてまずくて、本当に食欲がなくなりそうな気がした。これは効果あるかも・・・。あたしは順調に食事を減らすことが出来ていた。空腹との戦いはつらかったが、痩せるんだという思いから健闘出来ていた。それにあの人みたいになるんだ。あたしはこつこつ歩くその人を思い浮かべた。裏が赤い靴を履いていた。その身長はあたしよりも少し低かった。あたしは160cmある。あの人はヒールを履いてあたしより少し高いくらいだった。痩せていた。あの人もきっとこんな風に空腹と戦っているんだろう、そう思って耐えた。お昼も夜もおにぎりひとつ、そんな生活が続いていた。あたしの体重はみるみる落ちた。もともと太っているからだろう。3週間ほどで、4kg減と、面白いように落ちたのだった。
ある日の午後、仕事でちょっとしたミスをして、あたしは凹んだ。そんなに怒られることもなかったが、逆に言えばあたしはそんなに怒るような対象の人物ではなかった。どうでもいい人物だったのだ。ミスをしたからといって、叱って伸ばすほど、重宝されてはいなかった。いいのだ。どうせ整形するときこの会社も辞める。それまでの辛抱だった。あたしの貯金はもういい塩梅に貯まっていた。普段遊ばないので、家賃や生活費を差し引いても、楽に貯めることが出来ていた。
あたしはその夜も空腹と戦った。しかし昼間したミスが思いやられた。そして怒られなかったことも。あたしは耐えられなかった。足はコンビニへと向かった。アイス、シュークリーム2個。チーズケーキ、大福、おまんじゅう・・・手当たり次第籠に入れ、お金の計算をせずにレジにそれを出した。3000円程の甘いものを買った。あたしは家に帰ると、それを片っ端から食べていった。10分ほどで完食した。そしてあたしは激しく後悔した。ちょっとミスをしたくらいで、あたしはなんてことをしてしまったのだろう。これで体重は2kgは元に戻るだろう。それくらい食べた。
・・・吐けばいいんじゃない?そんな閃きが頭をよぎった。名案だと思った。なかったことにできるのだ、文字通り。あたしはトイレで右手を口に突っ込んだ。舌の根元を押す。途端に胃の中のものが逆流する。あたしは吐けるだけ吐いた。胃の中はおかげですっきりとした。次の日のあたしの体重は59.5kgだった。増えていない。それどころかちょっと減っている。わたしはこれはいけないことだと判っていた。しかしそれ以降、大量に食べては吐くを繰り返すようになってしまった。
あたしが「過食嘔吐」というものに嵌ってしまってから3カ月が経った。あたしの綺麗な手には、吐きダコが出来てしまっていた。醜かった。しかしあたしは痩せた体を手に入れた。あたしの体重は50kgだった。
あたしはそれまで着なかったようなかわいい服、スカートやワンピースなどを購入した。あたしはその体重に満足はいっていなかった。あと8kgは痩せようと思っていた。しかしあたしはおしゃれを楽しめるくらいには細くなったのだ。嬉しかった。髪の毛の色も明るくした。パーマもかけた。あたしは少しずつ変わっていった。ここまできたらあとは整形である。あたしの貯金は150万程になっていた。十分である。これで目の切開法と、鼻中隔延長手術をするのだ。あたしの胸は高鳴っていた。ついに整形できる。ついに生まれ変われるんだ。
その日もあたしはコンビニに向かった。色々と食べては吐いてきたけれど、半生状のものが吐きやすかったし、食べやすかった。なのであたしは矢張りスイーツを好んで食べ、そして吐いていた。この時もあたしはシュークリームやらエクレアやらケーキやら、何かと高カロリーのものを買った。折角食べるのだから、その方がよいと勝手に思っていた。どうせ吐くのだから・・・。そんな思いだった。ずっしりとしたビニール袋を2袋抱えてあたしは帰宅した。コンビニが近いのは罪だ。あたしは意図も簡単に食べ物をゲット出来ていた。ドサッとビニール袋をテーブルの脇に置いた。吐きやすいように甘い飲み物も買ってあるので重いのだ。あたしは座椅子に座り、ビニールからものを出しては食べた。
只管に食べた。食べても食べてもビニールの袋は減らないように感じた。しかしそれも着実に減らしてゆく。すべて胃の中に入れた。暫くするとビニールの中身はなくなり、むいた外パッケージがテーブルに山となった。あたしはそれを見て、どこか満足していた。
そして消化が終わらないうちにトイレに行った。右手を口に突っ込む。いつもどおり吐き気が訪れ、あたしは全部吐いた。吐き終わるとあたしはいつもぐったりして、そのままベッドに入った。その日もいつものように、なだれ込むようにベッドに入り、そして深く眠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます