第5話 指先負傷事件:姪の薬指の先がなくなる?

3時ごろに会議が終わり一休みしていたら、学校から電話が入った。調理実習中にフードプロセッサーで指に怪我をしたという。病院に救急車で運んだとのことで、手術の承認がいるので、すぐに来てほしいとの連絡だった。


慌てて病院へ駆けつける。途中、何本かの指を落としたのではとの不安がよぎる。そうなったら、かわいそすぎる。


病院の処置室で久恵ちゃんが、うなだれて座っていた。「大丈夫か?」と声をかけると「ごめんなさい」と泣きだした。そこへ主治医の女医さんが来て、説明してくれた。


診断の結果、右手中指は第1関節の先の傷が5㎜ 程度の深さで縫うだけで済んだが、薬指第一関節の先の傷が深く、かろうじて指先がつながっているので、すぐに手術するとのことだった。


細い血管の縫合は難しいのでやって見ないとわからないが、薬指1本の先がなくなる可能性もあると言われた。承諾書に近親者として署名捺印した。もう、よろしくお願いしますと頼むしかなかった。


「大丈夫、気をしっかりもって」と励ましたが、不安そうに手術室へ入って行った。


待合室に行くと、学校の先生が待っていた。怪我の診断結果を知らせると「申し訳ありません」と詫びるので「彼女の不注意です。こちらこそご迷惑をおかけしました」と詫びた。


実習中なので、治療費はすべて学校の保険でまかなえるとのことだった。もう自分がきたので、大丈夫だからと引き取ってもらった。


手術は2時間程かかった。順調に終わり1~2日で成功したか分かるとの説明を受けた。


この前、右肩を脱臼した時の整形外科の女医さんも若くて美人だったが、こちらの整形外科の女医さんも若くて美人なので、説明を聞きながら見とれた。「こんなときに不謹慎」と久恵ちゃんに叱られそう。


病室へいくと、久恵ちゃんが、窓の外を見ている。秋の夜の8時は、すっかり暗くなっていて、ライトアップした東京タワーが見えた。


「きれいだね」


「うん。ごめんなさい」


怪我した時のことを話してくれた。考え事をしていて、指が何かに当ったと思ったら血が飛び散ったという。指が痛いので、指がフードプロセッサーの刃に触れたと分かった。


キャーというと、周りの人が気が付いて大騒ぎになった。指が血だらけで痛くて、痛くて腰が抜けた。すぐに先生が救急車を呼んでくれて、この病院へ運ばれたという。


「結果は1、2日でわかるそうだ」


「先生から聞きました」


「指が壊死すればあきらめて」


「うん、私の不注意だから」


「実習中は集中しないとだめ」


「分かっている」


「心配事があるのなら、相談にのるよ」


「大丈夫です」


久恵ちゃんは何も話さなかった。


「きれいな女医さんだったね」


話をそらすと、やはり叱られた。


「こういうときに不謹慎でしょ!」


1週間は入院しなければならないので、着替えをもってきてほしいという。


「いいけど、下着だよね」


「うん。プラケースの中、適当に2~3枚ずつ、見ればわかる」


「いいのかい」


「しかたないでしょ」


「分かった。あすの朝、出勤途中に寄るから」


「お願いします」


「何かほしいものある?」


「ジュース」


「すぐに売店で2,3本買ってくるよ」


部屋に戻ると、久恵ちゃんがもじもじしているので、どうかしたと聞いた。


「トイレに行きたい」


「すぐに看護婦さんを呼んでくる」


「待てない。出ちゃう! 怪我した時からずっとトイレにいってないの。すぐにつれてって」


「ええ!」


右腕は包帯で胸の前に固定されて、左腕には点滴の管が支柱にまでつながっている。大丈夫かいと言いながら、部屋の入口にあるトイレまで付き添って中へ導く。久恵ちゃんの顔が引きつっているのがわかるので、すぐに出ようとする。


「下着を下して早く」


「えええ!」


「でも、見ないで!」


後ろを向かせてそっと下すと腰かけようとするので慌てて外へで出る。


しばらくして、中から声が聞こえる。


「下着を上げて」


「は、はい」


久恵ちゃんは後ろを向いているが、目を伏せて下着を上げた。でも可愛いお尻が見えた。それから、また付き添ってベッドへ導く。


「今度から早めに看護婦さんに頼むように」


言い残して慌てて帰宅した。もう疲れたー!


それから1週間後、下着の替えがなくなるころに久恵ちゃんは退院した。幸いにも縫合部分の壊死もなく、指はつながった。


そのあと2週間ほど自宅療養した。今回の入院は戸惑うことばかりだった。男親では手に負えないことが盛りだくさんあった。


洗濯は僕がしていたが、久恵ちゃんからは、下着の洗濯を頼まれなかった。下着は自分で洗っていたみたいだった。


お風呂は怪我したほうの手をビニール袋で覆って入っていた。退院したばかりのころは、僕が目をつむって、着ているものを脱がしてあげたり、湯上りの身体を拭いてあげたり、それからパジャマを着せてあげたりしていたから、とても時間がかかった。


ただ、前にいるときは目をつむっていたけど、後ろ回ったときはしっかり後姿を見ていた。可愛いお尻が忘れられない。


彼女の母親がいればと、女の子には母親が必要なことを痛感した。ただ、若いので回復はとても早かった。これは救いであった。


再び学校へ行く朝、僕の所へ来た。


「パパ、本当に心配と迷惑をかけてごめんなさない。親身になってくれてありがとう」


「また、考え事していてはだめだよ」


久恵ちゃんは怪我の元になった心配事についてはやっぱり話してくれなかった。まさか、自分が原因とは思いもしなかった。

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