13 内心
本当はかるなに話しただけのことを長野先生に話しただけじゃないんだ。
俺はもう、各務様の時のかるなを、顔を見ればどっちだか判るし、各務様を呼び出すことにもこの前成功した。
かるなと各務様は同じ人間だけれど、まったく違う人間なのだ。
それは顔の表情から言葉遣いから、まるで人が変わったように変わる。
それを事細かに長野先生には話した。
長野先生は思案し、でも各務様の状態のかるなの意識がはっきりしていて。記憶もあることなどから考え、二重人格の手前に当たる症状なのではないかということだった。
ただ二重人格と大きく違うのは、人格が変わるわけではないことと、記憶がはっきりしている点だった。
だから今のところは大丈夫、とそう長野先生は言ってくれた。
二重人格ははっきりと人格の交代があるし、かるなの場合はそれが見受けられないところから、二重人格になる可能性は低いと思われる、とのことだった。
でも二重人格になってしまうと、どちらかの人格としか接触できない状態になってしまうとのことだった。
俺はかるなも大事だし、各務様も大事だ。
俺はどうしたらいいんでしょうと聞いたら、かるなと各務様、どちらに対しても、同じように接することだと教えてもらった。
だけど俺は言葉遣いには気をつけるつもりだった。
各務様は教祖だし、それなりにプライドもある。
それを傷つけてしまいかねないと思ったからだ。
俺はかるなだけになってしまうのも、各務様だけになってしまうのも、怖い。
最悪かるなだけは残って欲しい。
もしかしたらこれから他の感情も表れてくるかもしれないとのことだった。
その時がきたら、俺はどうしよう。
俺たちはかるなお勧めのうまいラーメン屋でラーメンを食べ、俺のうちに行き、映画を借りて観て、音楽を聴きながら談笑したりした。
そういう日常に俺は幸せを感じている。
自分の彼女があの各務様だっていうことに、勿論優越感はあるけれど、でもそれだけだ。
各務様である彼女は苦悩しているし、俺にはなかなかそこを話してはくれない。
俺をもっと頼ってくれてもいいのに。
俺は心からそう思っている。
俺ってそんなに頼りないかな。
けっこうしっかりしてるんだぜ?
かるなとのこれからだってちゃんと考えてるんだぜ?
お前は何にも気づいちゃいないんだろうけど。
俺は、俺の初めての女であるかるなを大事にしていきたい。
その為には各務様ともうまくつきあっていかなければならない。
その準備をいましている。
でも俺は仕事を始めてしまったし、かるなとはなかなか会えなくなってしまったのは痛い。
だから一緒に暮らしたいな、なんて思っている。
けれど俺には中々言い出せない。
各務様にだったら言えるんだけどな。
でも各務様は現実に生きていない感じがするからそういう生活にかかわることに関しては相談できない。
なんてったってかるながメインなのだ。
各務様はあくまで概念の人なのだ。
概念の人と生活の話はできないだろ?
俺に出来ることってなんだろうな?
何が一番いいことなんだろうな?
本当に、薬で何とかなるもんなのかな?
俺には判らないことがまだまだ多すぎる。
かるなのことも、ほんの僅かしか判っていないのかもしれない。
もうすぐ俺たちは付き合い始めてから4年になる。
俺は今までかるなの何を見てきたんだろう?
お前がつらそうにしてたり、元気がなかったりすると、俺もつらいし元気がなくなる。
まだ俺に懐いてないのかな?
俺は大事にしてきたつもりなんだけどな。
でもまだ俺なんてやっともうすぐ20歳になる若造だし、大事になんて出来てなかったのかもしれない。
かるなが通院してることだって知らなかったんだ。
俺はもっと努力しようと思う。
俺にとってかるなは、本当に大事な存在なんだ。
だからもうちょっと心開いてくれてもいいんだぜ?
もうちょっといろんなこと話してくれてもいいんだぜ?
我侭だって言ってもいいのにな。
なあかるな、俺ってそんなに頼りないかな。
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