或る小鳥の嘆き

 好きよスキ。大好き。


 数え切れないくらい、甘い言葉を囁き続けた。彼が満足するまで何度も。蜂蜜漬けの砂糖菓子より甘い言葉を囀ずり続けていた。

 好きよ。愛してる。何よりも誰よりもアナタが好きよ。

 彼が、彼自身のために創った狭い狭い鳥籠の中で、彼に選ばれた私はそう囁いた。

「もっと、ボクを愛して」

 ソレだけじゃ足りないんだ、と。

 まるで子どものようにねだる彼を抱き締めて、その耳元で飽きること無く同じ言葉を繰り返した。

 小鳥のように可憐だと彼が喜んでくれた声で、彼の望むままに愛を囁く事が私の存在理由であり、喜びだった。

 だから──

「ど、う……して……?」

 硝子を引っ掻くような、甲高くて醜い声。これが私の声だなんて信じられない。信じたく、ない。

 これではもう、囁けない。囀ずれない。彼への愛を紡ぐことなど出来ない。

 だとするなら、私の存在理由は?

 言葉を紡ぐことの出来ない鳥の価値とは?

 ああ分からない知らない知りたくない。嫌よ必要とされなくなるなんて厭。私の存在理由を教えて与えて。私からそれを奪わないで。まだ彼を愛しているの。好きでスキで、言葉にしたって言い尽くせないくらい彼が好きなの。好きなの、に。

「……こんな声、要らないわ」

 ブツリと皮膚の裂ける音が鼓膜を叩く。

 それは声を無くした鳥の末路。


 突き刺したのは、喉。

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